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少女の目的


店主の青果店経営森村清純さん(46)に日当の入った封筒を受け渡され、ミクルは申し訳なさそうに眉尻を下げる。

「いつもすまないねえ。少ないけど」

「そ、そんな、ぜんぜんなのです。あたしこそ、このくらいしかできなくて……ごめんなさいなのです」

謙虚な姿勢を崩さないまま、小さな手で封筒を受け取り、それを胸元にねじ込みながらミクルは少しだけ俯いた。
が、すぐに顔をあげ、疲れた様子も見せずににこりと微笑む。

「それでは、次はお肉屋さんに行かないといけないので、これで失礼します。失礼しました!」

店主の挨拶を背中に受けながら、ミクルはプラカードを持って走りだす。この一コマだけを見ていると、まるで商店街復興物語と言わんばかりの流れであるが、あくまでミクルがしていることは生計を立てるための金稼ぎであり、本業は戦うウェイトレスであることを忘れてはならない。

紆余曲折のはてに明かされるミクルの知られざる任務だが、これは一人の少年を見守ることである。
少年の名を古泉イツキといい、いたって普通の、無駄に顔がいいところを除けばただの高校生なのだが、実はこれもミクルと同じく未来人……ではなく、超能力者なのであった。
ちなみにこれもどこかで聞いたことのある古泉一樹という人物とは他人の空似であり、一切の関係がないことをここに表明しておく。
ところで、前述でイツキは超能力者と言ったが、実のところ本人にその自覚はない。何かのきっかけでその秘めたる力を発揮するそうだが、今のところは何もなく、一般人と何ら変わらない高校生活を送っている。

「…………」

さて、そのイツキの通学路が、実はこの商店街のメインストリートなのだ。必要性を感じないスマイルを浮かべながらのんびり商店街を練り歩くイツキを、影ながら見守るのは当然ながらミクルである。
物陰からひっそり、といっても彼女の服装はどこからどう見てもバニーガールであり、なかなかひっそりという風体を感じさせないのが残念なところなのだが、ミクル本人はひっそり見守っているつもりだし、イツキ本人も気づいていないのでよしとしよう。

「ふう……」

ミクルが小さく息を吐く。今日も無事なイツキの姿に安堵したらしい。
『牛ハラミ肉百グラム98円』、おまけにハートマークと牛のオリジナルイラストが描かれたプラカードを提げ、ミクルはイツキが向かった方向とは反対の方へと歩き出した。



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あきゅろす。
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