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あらわれる素顔


そのグループが結局、講堂で演奏を披露する最後のやつらだったらしい。
そいつらが舞台袖へと消えていくタイミングを見計らい、俺も講堂の外に出る。あとから古泉が追いかけてきているのが見えたが特に反応はしない。講堂の外に出ると、中から漏れ出る歌を聞こうと溜まっていたやつらが大量にいて、そこからも抜け出るのが大変だった。
舞台側にまわり、既に演奏が終わって片付けに入っていたグループたちを見つける。ハルヒたちはもういなかったが、今さっき出てきたばかりのやつらは当然ながら演奏機器のコードやなんやらを手に持って、談笑をしていた。

「今回は、本当にありがとう。正直もうだめだと思ってた」

「いえ、こちらこそ。本当のボーカルさんに申し訳ないです」

俺に背を向けている小柄な帽子やろうは、そこでぺこりと頭を下げた。その話し声と後姿に気づいたものがあったのだろう、古泉がぴくりと肩を震わせる。
そのうち、確かドラムをたたいていたらしい人と目が合った。演奏者ではないということに気づいたのだろう、不思議そうな顔をしてこちらを見ている。それにつられて帽子やろうも振り返り、ちょいと帽子の隙間からこちらを見て、げっ、と言わんばかりに口を開いた。

「あ……、知り合い?あの、あとの片づけはオレたちがするから、もう行っていいよ?」

「いえ、そういうわけには……」

「いいんだって。本当に申し訳ないから、行って」

「はあ……」

説き伏せられ、帽子やろうが申し訳なさそうにお辞儀をする。随分と足取り重く、俺たちのところに歩いてきた。俺の表情を窺うように帽子をちらちらと顔をあげるが、こちらからは口元しか見えない。何を言いたいのか閉じたり開いたりをしているが、どちらにせよ出てくるのは言い訳だろう。

「…………」

「…………」

「…………」

三者三様の反応……とは言っても、皆黙っているだけだが。とにかく、俺の目の前に立ったそいつは、ためらうように手を伸ばして、帽子をぎゅっと握った。それをゆっくりとはずすと、中から束ねていた髪の毛が落ちてくる。
少し癖がついたその髪の毛に思わず笑ってしまって、場の空気が緩んでしまった。仕方がないのでこほんとひとつ咳払いをして、目の前のそいつを見下ろす。

「……何か、言うことは?」

少しの沈黙の後、そいつ――名前が、ごめんなさいと呟いた。



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