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メンバー紹介


ほぼ満席になった講堂に、ハルヒの歌声が響きわたる。そうして余韻を残して曲が終わると、ハルヒは今度はそっとマイクスタンドから手を放し、客席を見渡した。

「えー、みなさん」

あまり見慣れない、硬い表情をしたハルヒが小さく咳をする。静まり返った講堂には、ただでさえ声の通りの良いハルヒの声はよく響いた。いつもより瞬きの数が多いのは、もしや緊張しているからだろうか。

「ここでメンバー紹介をしないといけないんだけど」

右手を挙げ、自分と長門をゆっくり指差し、

「実はあたしと有希……あ、エレキギターの子ね。は、このバンドのメンバーじゃありません。本当のボーカルとギター担当の子は、ちょっと事情があってステージに立てなかったから、代わりにあたしと有希が代理で出たってわけ。あ、ボーカルとギターを担当してるのは同じ子ね。だから本当のメンバーは三人だけなの」

言うなりハルヒはマイクスタンドからマイクを引き抜くと、つかつかとベースの女生徒のもとへ歩いて行った。突然ハルヒが向かってきたことに驚いたのだろう、びっくりしたように肩を震わせた女生徒が、寄せられたマイクを見て眼を白黒させている。ハルヒが小声で何かを言うと、思いだしたかのように自己紹介を始めた。
その自己紹介が終わると、今度はドラムの女生徒に。その女生徒が自己紹介を終えると、すぐにステージ中央に戻る。

「このお二人と、今はいないリーダーの人が本当のメンバーよ。そういうわけで、ゴメン。あたしに代役が務まったかどうか、自信はないわ。本番まで一時間しかなくて、まともに合わせもできてないから、ほぼぶっつけなの」

落ちついたときに聞いたらその事実がどれだけすごいことなのかがわかったのだろうが、今は皆茫然としすぎていて、うまくその事実を飲み込むことができていなかった。
その間にもハルヒはぴょこりとウサ耳を揺らし、言葉を続ける。

「だから、そうね。代役なんかじゃなくて、本当のメンバーの曲が聞きたい人は後で言ってきて。あ、テープかMD持ってきてくれたら無料でダビングするっていうのはどうかしら。いい?」

唐突なハルヒの問いに、ベースの女生徒がぎこちなく頷く。

「そ。じゃあ、決まりね」

今までずっと真面目な表情で語っていたハルヒが、ふいに薄くほほ笑んだ。俺たちに見せるあの、太陽の日差しなみにギラギラしたものとは少し違うが、十分明るいものだ。えらく久々にハルヒの笑顔を見た気がする、と思いながらぼうっとしていると、マイクスタンドにマイクをおさめたハルヒが声を張り上げた。

「ではラストソング!」



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あきゅろす。
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