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広がる噂


MCもグループ紹介もなしに歌を始めるとは斬新だな、と思いながらぼんやりステージ上のハルヒを眺めた。曲が始まった瞬間、長門が見せたギターのテクに腰をやられそうになる。あいつがギターを弾けたなんて聞いた覚えがないので、恐らくはハルヒに言われてから技術を身につけでもしたのだろう。どんな方法で、なんて考えるのも無意味な気がするが。

一曲目が終わるまでは、俺も観客も動くことができなかった。曲が終わって二曲目に移るころに、ようやく幾人かがリズムに乗り出したくらいだ。まあ、正直な感想を言えば、歌は良かった。曲も良かった。ギターが異常なほどうまかったというものあるが、ハルヒの声も先ほど聞いた生徒よりは、上手に聞こえたから。というのもある。

怒涛の勢いで二曲目も終わると、間も置かずに三曲目が始まった。その頃になってくるともう皆だいぶ余裕が出てきて、リズムに乗り始めたりしている。俺も指先でリズムを取りながら曲に耳を澄ませていると、人ごみをかき分けるようにして、奇妙な格好をした男がこちらにやってきた。

「どうも」

明らかに異国のいでたちをしたそいつは、俺を見るなりにこりと微笑む。いや、もとから笑顔は浮かんでいたので、それがさらに濃くなったと言えばいいのか。
スピーカーでガンガンと音があふれているので、いちいち顔を近づけての発言だ。

「これはどうしたことでしょう?」

知るか。というかおまえこそその衣装どうしたと言ってやりたい。

「いちいち着替えるのも面倒なので、舞台衣裳のままで移動させてもらっているのですよ」

まあ、金もらってやってる役者ではないし、衣装だってそんな金のかかったものではないだろうからそこまで頓着しなくてもいいのかもしれないが、汚さないように気をつけろよ。

「ええ、お気遣いありがとうございます」

壁にもたれかかって静かにしている俺の隣に立ち、古泉はステージ上に立つハルヒを見上げた。バンダナで押さえ込んでいる前髪が、窮屈そうに揺れる。それをぴん、と指先ではじいて、聞いてもいないのに古泉がつらつらとしゃべりだした。

「噂を聞いたものですから、駆け付けたのですよ。何せあの格好ですからね、話題になるのも不思議ではありません」

どうやら舞台に出ていた古泉の耳にも届くほど、ハルヒの奇行は学校中に知れ渡っているらしい。講堂であの涼宮ハルヒがおかしなことをやってる、というな。
そのせいか、先ほどより講堂の中に人が集まっている気がする。扉の前にかけられた暗幕の隙間から、ちらりと姿を表しては中の様子を窺う生徒すらいた。



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あきゅろす。
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