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ステージに上がるのは


嫌な予感、というものは得てして外れないもので、今回一瞬感じたその『嫌な予感』とやらは、例に漏れず当たった。
講堂に入った瞬間、頭に響き渡ってきたドラムやギター、ボーカルの声、それまでは良かったのだ。それがもう終曲を迎えていて、さっさと退場してしまったのもまあ良い。どうせ俺は知らない学生たちだし、歌っている曲が好きだったというわけでもない。
だが、そのあとが問題だった。舞台袖へと消えていったグループとは反対に、舞台袖から出てきたグループ。やたら見覚えのあるウサギ耳。

「げぇっ……」

思わず喉からそんな声が出てしまったのも仕方のないことだろう。顰めた眉のせいで眉間は皺だらけだ。何度目を瞬かせても、視界に映った人間が変わることはない。
俺以外の学生も、一様に目を瞬かせていた。漫画でよく使われるような、ずざざっ、という効果音すら頭に流れてくる。何やってんだあの野郎、と俺が考えるのも当然というものだろう。

そこにいたのは、涼宮ハルヒ、その人だった。間違えようもない、本物だ。人間に対して本物というのも何かおかしい気はするが。とにかく、ハルヒだ。さっき見たばかりのバニーガールの衣装を身にまとい、颯爽とステージの中央に立つ。
次に入ってきたのは、これまた眼を疑う人物だった。ほぼ見慣れたと言ってもいい、黒い衣装を以下略の長門有希。しかもエレキギターを持っているときている。
もしや俺は白昼夢でも見ているのか、とも思ったが、手にかく汗も耳に聞こえてくる足音も周囲の人間と密集したことで感じる温度も何もかもリアルだ。

「あいつら、何を……」

次にステージに上がってきたのは見たこともない女生徒で、俺はそれに妙な安堵を覚えた。少し大人びていることから、なんとなく三年生なのではないかなと思う。もう一人舞台袖から現れて、結果的にステージの上に登場したのは四人だ。そのうちの半数をSOS団が占めているというのは、何とも言えない気持ちだな。
ただ登場して、皆を驚かせてそれでオシマイ、というパターンであれば何の問題もなかったのだが、ハルヒはさも当たり前のようにマイクスタンドをいじり始めた。自分に合った高さに調節しながら、譜面台までいじる。長門はエレキギターを構え、残り、俺の知らない二人もベースギターとドラムの調節を始めた。

ハルヒが譜面台の上にスコアらしきものを置き、マイクの頭を叩いてスイッチが入っているのかを確認した後、ドラムの女生徒に何かを言う。これからMCでも始めるのかと思ったが、一拍置いたのち始まったのは、鋭いドラムの音だった。



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あきゅろす。
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