ふたりのメイド
もう十数分ほど、計三十分しっかり待たされて、ようやく中に通された。
待っている間も列は大幅に増えていたが、そのすべてが男だったという点がなんとも言えんな。俺が言えた義理じゃないが。
教室に入ると、ムッとした熱気のようなものが伝わってきた。賑わっているというのもあるが、教室の半分を調理するために使用しているからだろう。もう半分が客用テーブルになっていたが、中は見事に男女の比率が半々になっていた。
というのも、調理をしているのが女のみで、客が男のみだからだ。調理しているのは当然鶴屋さんのクラスの女子だろうが、じゃあこのクラスの男子はいったいどこに行ったというのだろうな。
「お待たせっ!さ、そこらへんの空いてる席に座っててよっ。おーい、水四丁ーっ!」
ジュウジュウと焼きそばを調理する音が教室に充満しているのにも関わらず、鶴屋さんの声はよく通る。その声に、控えめな「はぁい」という返答があった。
「あ、いらっしゃいませぇ」
当然おわかりであろうが、声の主は朝比奈さんである。
水道水の入った紙コップをお盆に載せてやってきた朝比奈さんが、四つの紙コップを丁寧にテーブルに置いて行く。配り終えた後、胸にお盆を抱え込んで、ふんわりと微笑んだ。
「ようこそ、ご来店ありがとうございます」
一礼のあと、ぱちぱちと大きな目を瞬かせる。
「名前ちゃんと、キョンくんと、そのお友達の……えーと、映画に出てくださった、エキストラの……」
俺と名前以外の二人が同時に反応した。谷口は今までのテンションより若干高めだ。
「谷口です!」
「国木田です」
二人の自己紹介を受け、朝比奈さんは目を細める。
「うふ。朝比奈みくるです。よろしくお願いしますね」
その笑顔を見ていると、確かに『写真撮影はご遠慮願います』のポップがあるのも納得できた。もしうっかり許可しようものなら、この教室の中はちょっとしたカオスになるに違いない。
「名前ちゃんもメイド服着てるんですね。かわいい」
「あは、あ、りがとう……」
にこりと微笑み、朝比奈さんがチケットの半券をもいでいく。少々お待ちくださぁい、という一言とともに去っていく後ろ姿に向かって、名前が、みくるちゃんのほうが可愛いに決まってるじゃんかー、と小声で言ったのが聞こえて、思わず吹いた。
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