NG・写真撮影
鶴屋さんのすぐ、という言葉はどうやら俺のそれとは少しばかり違っていたらしい。十分過ぎたあたりでそう思っていると、がやがやとした喧噪とともに数人の男子生徒がやってきた。
俺たちの後ろに並び、同じく鶴屋さんに料金を払って待ちの態勢を取り始める。
列は見事に男だらけとなった。その中にポツンと名前がいるわけだが、それがメイド服着用といった特殊仕様であることがなんとなく面白い。
俺のすぐ後ろに並んでいる男たちが、ふいに声をひそめて何かを言い始めた。俺にぎりぎり聞こえるくらいの声音だ。
「なあ、見ろよ。メイドさんだぜ」
「ここの店員じゃねーの?」
「や、着てる種類が違う」
「ほんとだ」
だろうか。ぎりぎり聞こえたレベルなので、もしかしたら違うかもしれないが。
名前は谷口や国木田と談笑しているので、一切聞こえていないだろう。やっぱりメイド服だと目立つもんだな。まあ文化祭なので、珍しい衣装はなにもメイドだけには限らない。長門の着ているような魔女ルックの生徒だって当然いるわけだし、先ほど廊下を段ボールで作ったと思しきロボットが歩いているのが見えた。あれは当然中の人がいるんだろうが、どんな人が入っているのか気になるな。
そんなことを思いながら、その会話に引き続き耳をすませる。
「写真撮らせてもらおうぜ」
「え?でも、写真撮影はご遠慮願いますって……」
「そりゃこの店の注意書きだろ。アレお客さんじゃん」
その言葉に引かれて視線をあげると、なるほど確かに教室のドアには『写真撮影は御遠慮願います』と手書きのポップが貼られていた。
それは店のメイドのみに適用するルール、というのはわかるのだが、だからと言って名前が撮られるというのはなんとなく、こう……気に食わない。
「国木田、ちょっと」
「ん?なに」
国木田を呼びよせ、横に立たせる。名前は俺の前に立っているので、これでほぼ見えなくなっただろう。後ろで何かを言っていたようだが、無視だ無視。
国木田は突然俺が呼び寄せた理由がわからず目を白黒させていたが、俺の背後にちらりと視線をやってから、ああ、と合点がいったようにつぶやいた。
「キョンって、わっかりやすいよねえ」
「……何がだ」
「別にぃ」
口笛でも吹きかねん様子の国木田は、しかし文句を言うこともなく、そのままの位置に立っていてくれる。その表情が穏やかな笑顔だったので、俺は開きかけた口を閉じた。
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