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料理の手腕


「まあまあ、いいじゃん谷口。どうせなんだからご相伴に預かろうよ。それに、いいことだってあっただろ?」

「……う、そりゃ、まあな……」

からからと国木田が笑んで谷口の肩を叩いた。もごもごと口ごもって、何か言いたげにしていたが国木田の説得にはかなわないらしい。

「しっかし、気になるのは味だよな。なあキョン、もしかして作るのは朝比奈さんじゃねえよな?」

彼女ならメイドに身をやつして給仕係をすると仰っていたが、それがどうかしたか。

「いやあ……どうにも料理が下手ってイメージが抜けなくてな。あの人なら塩と砂糖を間違えるくらい平気でやりそうだ」

まあ確かに、そのような勘違いをされてもおかしくない程度には天然な方だ。俺だってあまり親しくないころにはそんなことを考えていたさ。
だがそこまでドジではない。タイムマシンをなくしてオロオロしているところを見たことがあるくらいで、塩と砂糖を間違えるようなミスは今のところしていない……はずだ。いや、未来人としてそれは駄目だと思うが。

「名前はどうなんだ?」

谷口がぱっと横を向きながら問いかける。黙って会話を聞いていた名前は、突然話を振られたことに驚いたのだろう、若干目を見開いて身を引いた。

「えっ、あ、私?料理ね…料理……」

「こいつは料理上手だぞ」

戸惑っている名前の代わりに答えてやる。
少なくとも、料理はできる。菓子だってうまかった。何より毎晩オフクロの手伝いをしているのだ、ほぼ毎日料理をしていると言っても差支えないだろう。将来結婚するときが来たとしても、何の憂いもなく嫁げるな、って、何を考えているんだか。

「へえ、そうなんだ。前からいくらか話しは聞いてたけど、やっぱり上手なんだね」

「そ、そう……なの?かな……。料理はするけど、上手かどうかは、ちょっと」

照れているのか本気で戸惑っているのかはわからないが、視線はうろうろしているので、悪い気はしていないようだ。谷口は何やら俺と名前の顔を見比べて、溜息だか深呼吸だかわからないことをした。何か言いたいことがあるなら言えばいいのに、と言いかけて、急いで口を閉じる。
もしかして今、俺は少なからず「俺と名前は仲良しだぜ」アピールをしてしまったのではないだろうか。そりゃまあ一緒に住んでいるのだから普通以上には仲良しだとは思うが。名前に好意を持っているらしい谷口からすればいい気分ではないだろう。

「おい、谷ぐ」

「あ、あそこだね」

声をかけようとした瞬間、国木田が口にした言葉に、俺だけでなく谷口も止まった。雑談しながらだと思った以上に早く辿り着くのだな、と思いながら焼きそば喫茶の看板を見つめる。教室の外に立っていたメイドさんがいち早く俺たちの存在に気づき、ぱっと手を上げた。



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あきゅろす。
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