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三十パーセントオフ


えらく興奮した谷口に詰め寄られ、わずかに動揺した名前も、国木田に優しく誘われ恥ずかしそうにうなずいた。

「そ、そう言ってもらえると嬉しい。実は結構、1人でビラ配るの寂しくて」

「そうなの?うん、ならなおさらだね。一緒に回ろう」

「ありがとー」

さわやかに会話している国木田と名前の後ろで、谷口が激しいガッツポーズを決めている。あれには触れるのも面倒なので無視しておこう。
どうせだったら手伝うよ、とビラを受け取ろうとする国木田にはさすがに断りを入れたようだが、名前はうれしそうに微笑んでビラをぎゅっと抱えた。

「じゃあ、行こうか」

「どこに……あ、みくるちゃんとこか!」

合点がいったとばかりに俺の脇腹を肘でつついてくる。なんだそのニヤケ面。このこの、と言いながら茶化すように目を細めた。
何を勘違いされているのかはわからないが、これは……みくるちゃんのところに行けてよかったねとでも言う感じか?

「こら、やめなさい」

「はーい」

軽く窘めると、名前はすんなり肘を離した。ほっと一息ついて歩き始める。一応これでも傷心の身なんだ、傷を抉られるような接触は避けたい。
名前の隣には当然とばかりに谷口が並んだ。それにわずかながらイラッとするが、俺が怒る理由もないので黙る。そんな俺を国木田が見て、何やらどうしようもないものを見たかのように、はっと小さく息を吐いた。
廊下をぞろぞろと進んでいると、割引券を取り出した谷口が苦笑気味に発言する。

「しっかしよお、どうせなら無料招待券とかをもらいたかったな」

朝比奈さんご本人が持ってきてくださった割引券になんというケチを。
恐れ多いにもほどがあるぞ、と思いながら後ろ頭を小突いた。ぴらぴらと谷口の手の中で揺れる割引券は、焼きそばを三十パーセントオフにしてくれるものだ。

「撮影に手伝わされて池にも落とされたのに何のお礼もなしで、試写会にも招待されねえ。その代償が三十パーセントオフじゃ割に合わねえなあ」

「文句があるなら帰れ」

言っておくが一番損をしているのはほかでもない朝比奈さんなんだぞ。主演を望んでもいないのに演じさせられた上、報酬はナシ、得たのは商店街のおじさんおばさんからの認識と無駄に切ない羞恥心だけだ。
それは朝比奈さんだけでなく、長門や古泉、当然名前にも該当する。俺にもだ。朝比奈さんと長門と古泉は立場上仕方無いようなものもあるかもしれないが、それは別として。
おまけに名前はその撮影中にいろいろとハプニングがあったしな。今は傷が残らなくて良かったと思うばかりだ。



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あきゅろす。
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