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SOS団お茶のプロ


茶葉を選ぶのにどれほどの時間がかかるのか想像つかないが、わざわざ休日に出かけるのだからそれなりに大きな店に行くのだろう、と思っていた俺が連れていかれた先は、駅近くにある総合デパートだった。
名前と一緒に何度か来た覚えがある。でも茶の専門店なんかあったっけか、と記憶の中から何かを引っ張り出そうとして、そう言えばと思いだした。名前がその専門店の前を横切るとき、ここみくるちゃんが好きそうだね、と言っていたのだ。確か。

店の中に入り、朝比奈さんが「こんにちはぁ」とやわらかな声をかける。店主らしいおじさんが顔をあげ、朝比奈さんを視認するなりとろけるような笑みを浮かべた。やはり朝比奈さん効果は年齢性別問わず発揮されるものなのだね、とどこか遠いところで考える。
どうやら様子を察するに、朝比奈さんはここの常連さんのようだ。

「ううん、どうしようかなぁ」

ところせましと並べられている茶葉を見下ろしながら、朝比奈さんがうんうん唸る。ついてきてください、と言われてホイホイついてきたはいいものの、俺には茶葉の良しあしなどわからんので、後ろから黙って見ているしかできない。
朝比奈さんは今までにないほど目を真剣に輝かせて、やれ茶の乾燥回数だの、やれ釜炒りのタイミングはいつだだの、店主と熱心に話し合っている。

「キョンくんは、どれがいいと思いますか?」

お願いですから知識ゼロの人間に話を振るのはやめてください朝比奈さん。
とは言えず、ぱっと見て愉快そうな名前のついた茶葉を何度か指差してみたりするが、やはりここはプロフェッショナルの朝比奈さんに頼んだ方がいいので、とすべてを投げた。俺にはわからん。ずぶの素人が選んだものよりは、愛らしくて知識もあり、何より愛情をもって茶に接する朝比奈さんが選んだもののほうがずっといいさ。

満足のいく品が決まったのか、ほくほく顔でレジに向かっていった朝比奈さんが、金を払いながら俺を見てきた。

「あのぅ……」

「どうしました?」

「せっかくだから、お茶、飲んで行きませんか?ここ、買ったばかりの茶葉でお茶を入れてくれるの。お団子もおいしくて……」

ほら、と指差されるままに視線を向ければ、店の奥にテーブルが設置されているのが見えた。なるほど、ここはどうやら簡易喫茶店の役割も担っているようだ。断る理由もないので素直に頷き、店主に茶葉を預ける朝比奈さんの後ろをついていく。
慣れた動作で椅子に座った朝比奈さんは、ちらりと腕時計を見た。
――また、だ。さっきから気付いてはいたのだが、どうにも今日、朝比奈さんは腕時計に視線を移す回数が多い。何か、時間に追われているOLのような切羽詰まった感じと言えばいいのか、何かと時間を気にして、追い詰められているような表情。
でも、彼女が何も言わないものだから、俺も追及はしない。必要とあらばいずれ言ってくれるだろうよ、と思って。

「うまい団子ですね。お茶もいい。さすが朝比奈さんが選んだお茶です、きっとあいつらも喜びますよ」

「うん……」

いつもならば、ありがとう、と言って微笑む朝比奈さんはやはり、どこか浮かない様子で唇をいびつに引き結ぶだけだった。



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