[携帯モード] [URL送信]
十五分前


さて、来たる日曜日。俺は自分でもそれとわかるほど浮かない顔で家を出た。
ちなみに朝起きたときにはもう名前は準備を終わっていて、俺が朝食を食べ始めるとほぼ同時に出たくらいだ。何やらいそいそという表現が似合いそうな様子で出て行ったため、朝食を準備していた母ですら「デートなのかしら」と言っていたくらいで。

「キョンくんと一緒に出かけるんじゃないのー?」

玄関まで見送りに出た妹の声が聞こえたが、名前は困ったように苦笑するのみだった。戻ってきた妹に何やらもの言いたげな視線を感じたが無視もした。やるせない。

着替えを終え、適度な時間になったところで玄関に出る。靴を履いていると、妹が「キョンくんも出かけるのぉ?」と聞いてきた。ああそうだとも妹よ、俺はこれから出かける。しかも相手は朝比奈さんだ――とはさすがに言わない。なんてったって内緒だからな。
なのになんでこんなにも気が沈むんだ。
その理由なんてわかっているけれども。

「じゃあ行ってくるから」

「いってらっしゃーい」

家から出て、愛用のママチャリにまたがる。俺が家にいて名前だけが出かけるとき、たまに名前に貸したりもするのだが、今日は貸してほしいとは言われなかった。歩いて出かけられる距離にいるのか、歩いて行っても遅れないようにあんなに早く出たのか。悶々とあらゆることを考えてみるが、どの可能性も否定できなくてかなわん。
しゃっこしゃっこと軽い音をたてる自転車は、まるで俺の心情を表しているかのようにのったりとした動きだ。
腕時計を見るが、まだ約束の時間までもう少しある。ゆっくり行くか、と考えながら、足から力を抜いた。

一緒にお茶を選んでほしいの、と言われたものの、なぜ朝比奈さんが俺を選んだのかはよくわからん。裏に何かを感じる。もしこのまま待ちあわせ場所に行って、朝比奈さん(大)が華麗にほほ笑んでいたとしても俺はたぶん驚かないね。
のらりくらりと通行人をかわしながら辿り着いた待ち合わせ場所には、既に朝比奈さんがいた。(大)ではなく(小)だ。幾分かほっとする。自転車をとめて近寄れば、両手をこすり合わせて暖をとっていたらしい朝比奈さんがこちらを見た。

「あ……」

「すみません、待たせてしまって」

「いいえ、あたしも今来たところですから」

設置されていた大時計を見上げれば、待ち合わせ時間のおよそ十五分前。俺としては早く来たつもりなのだが、それより前にこの人は来ていたということになる。どれくらい早く来ればいいんだろうね。こういうのって男が待たせちゃいけないのか?
フェミニンな格好をした朝比奈さんは、いつもとは少し違って髪の毛を上でひとまとめにしていた。ポニーテールと言えばそうなのだが、なんだかポニーテールと言っていいのか迷うほどおしゃれな感じだ。俺を見たり視線をそらすたび、髪の毛がぴょんこぴょんこと揺れるのがかわいらしい。

「……それじゃ、行きましょうっ?」

「ええ」



前*次#

7/47ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!