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彼女のご予定


「お前、週末は家にいるか?」

帰り道、自転車を押しながら問いかけると、隣を歩いていた名前がびくりと一瞬震えた。
真正面から見たわけではないが、確実に視界に入ったぞ、今の。何か引っかかるところでもあったのだろうか、と視線を横にずらすと、横顔こそはいつもどおりの名前がいる。しかし若干顔色が悪い、ような。

「……名前?」

「うおっ?」

うおってお前はおっさんか。

「えっ、……いや、ちょっと用事があって、朝からたぶん出かける……」

「…………」

何やら引っかかるもの言いだな、と思いながら、何の用事だ?と問いかけてみることにする。案の定顔をひきつらせた名前は、ちょっと、とまた言葉を濁した。
いつもならばあまりプライベートなことにつっこんではいけないだろう、と自重している俺だが、今ばかりはなぜか気になってしまって、名前の顔を覗き込む。顔をそらされた。

「…………」

やけにむっとして、自転車を片手で押しながら、もう片方の手を名前の顎につける。いーやー、と駄々をこねる子供のようにそれすらも避けられて、まあなんだ、カッとなって言った。後悔は若干している。

「男か?」

まるで浮気を咎める彼氏のような言い方をしてしまったが(いや、どちらかと言うと娘に初めて彼氏ができたときの父親のような物言いではないだろうか)、そもそも俺は彼氏でもなんでもないというのに。なんでもかんでも聞いていいわけじゃない。案の定名前は困ったような顔をして、そらしていた顔をこちらに向けてくる。眉はハの字に寄ったままだ。
急に悪いことをしたという自覚が出てきて、視線をそらした。すまん、と小さく呟けば、ううん、と名前が返す。内緒ね。朝比奈さんの小さな声が頭の中に浮かんできた。

もしかするとこいつも、ないしょの何かがあるのかもしれない。

「……あと、俺も、出かけてくるから。家の鍵、ちゃんと持っとけよ」

「え、あ、うん」

俺よりもずっと大人な名前は、それ以上何も言ってこなかった。俺みたいに妙に突っ込んできたりもしなかったし、咎めるような視線もなくて、詮索するようなそぶりも見せない。
なんだかひどく自分が恥ずかしいことをしてしまったと、あとになってひどくひどく後悔した。



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