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週末のご予定


「いっ、行きましょう」

「え……、あ、はい」

ふよふよと頼りない手で背中を押され、やかん片手に水飲み場まで向かう。朝比奈さんはちょこちょことメイド服の裾を揺らしながらついてきた。
部活途中生徒がすれ違うたびに、ぎょっとしたような、ぽやっとしたような視線を朝比奈さんに向け、それから前を歩く俺に向く。普通視線が向く順番が逆だと思うが、それは俺が平凡顔で、朝比奈さんが天上人のごとき麗しさだから仕方ない。むしろこの方とこの距離で歩いているというのが、一種の誇りみたいなものにも思えてくる。

それはどうでもいいとして。
水飲み場でやかんに水を入れながらぼうっとしていると、朝比奈さんがちょい、と俺の服の裾をつまんだ。

「あのぅ、キョンくん」

「はい?」

「……その、今度の日曜日、ヒマですか?一緒に行ってもらいたいところがあるの」

何やらえらく思いつめたような、せっぱつまったような表情だ。
これは断るわけにはいかんな、と思いつつも、一応週末の予定を頭の中から引っ張り出してみる。何も入っていなかったはずだ、たぶん。一瞬浮かびあがった名前の顔に、自分自身で困惑した。

「はい、ヒマですよ」

どうせ家にいてもやることはないだろう、だったらヒマに違いないさ。
俺の返答を聞いた朝比奈さんは、あからさまにほっとしたような表情を浮かべた。順調にいやなパターンに近づいて行っている。もしやこのまま流れ的に、時間遡行(今までのパターンを考えると過去に行く確率が非常に高い)してしまうのではないか?
と、俺が思っていることが伝わったのか、蛇口をひねりながら朝比奈さんが苦笑した。

「大丈夫です、未来にも過去にも行きません。デパートに行って、お茶の葉を選びたいの。皆には内緒で……」

何やら最後の言葉に怪しい何かを感じないでもないが、素直に頷いておくことにする。内緒と言われたら内緒にするさ。
朝比奈さんは今度こそ無邪気に微笑んで、それじゃあ行きましょうか、と呟いた。動く瞬間にふりふりと揺れるメイド服が実にいいね。恐らく重たいであろうから、とやかんを持って歩く。
週末は朝比奈さんとお出かけ、お出かけって言い方はなんか女の子みたいだな。ほかに言い方はあるだろうか、デート?それは非常に違和感だ。
やっぱり名前の顔が浮かんできて、意味もわからず苦しくなった。



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