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通常仕様と違和感と


倒れた箒を名前が拾い上げ、えらく動転している朝比奈さんに渡す。ごごごめんなさい、と謝りながら朝比奈さんが下げた頭が、見事箒の柄にぶつかった。恐ろしいほどの漫画的展開だ。

「だ、大丈夫だから、とりあえず落ち着いて」

「あうぅ……、ごめんなさいぃ……」

動揺しっぱなしの朝比奈さんを椅子に座らせる。名前から渡されたハンカチで、微妙に目尻に浮かんだ涙を拭っていた朝比奈さんは、か細い声でつぶやいた。

「い、いつの間に入って……?」

いつの間にって、さっきですが。ついでに(名前が)ノックもしましたが。
苦笑交じりにそう言うと、朝比奈さんはかああ、と顔を赤らめた。全く素直な反応で、見ていて実にほほえましい。

「あ、あたしったら……そのぅ、考えごとしてて……気付かなかったみたいです」

「いえ、それはいいんですが……」

魅惑のエンジェルを悩ますこととは一体何だ、と思いはするが、迂闊に人のプライベートに踏み込むわけにもいくまい。
えへへ、と恥ずかしそうに微笑む朝比奈さんはまさに天使、天使を具現化したそれと同じ愛らしさだ。愛すべき生き物であると何度も自覚させられるね。

「……そういえば、涼宮さんは?今日は一緒じゃないんですか?」

「ああ、あいつなら掃除当番ですよ」

椅子に座りながら答えると、名前が「確か音楽室だったよね」と補足を入れる。そうだな、今頃掃除とは思えぬ動きで箒を動かし、埃でもたてているだろうさ。
俺たちの言葉に、朝比奈さんは、

「そうですかぁ……」

と言ったきり反応しない。ハルヒの現在位置について聞きはしたものの、これといって意味はなかったようだ。
その動作にやはり違和感を覚え、首を傾ける。名前を見ると、同じような反応を返された。どう言ったらいいのだろうか、いつもより華やかさが足りないと言うか(この言い方はいささか誤解を生みそうで怖いが)、とにかくアンニュイな空気に満ちている。
なんだなんだ、今日は違和感大売り出し大サービスでもやってるのか?名前といい朝比奈さんといい、何やらおかしな空気だ。いや、部室に入った時点で名前は通常仕様に戻ったが。

「…………」

細い指先を意味なく絡ませ、何か言いたげに朝比奈さんが俺を見上げてくる。
なんだこれは。可愛らしさに一瞬喜びゲージが満ちるものの、その先に待ち受けている何らかの試練が垣間見えて、一気にゲージが低下した。



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あきゅろす。
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