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魅惑チーズケーキ


明後日から正式に働くことになった私は、ひとまず山田さんの店で一番の売れ行きのベイクドチーズケーキを買って帰った。
売り出しに使うコスチュームを購入するから、その間は待機、みたいなものだ。もし売れるようになったら店員として中で働いてもらうかも、と言われ、勿論快諾した。

「キョーン!」

ドアを開けるとまさに着替えようとカッターシャツを脱ぎかけたキョンと目が合った。

「すいません」

すぐにドアを閉め、それから数秒後。顔を真っ赤にしたキョンがスウェット姿で出てくる。いや、あの、覗く気はちっとも無かったんです…これっぽっちも。すいません。

「いや、こっちこそ鍵かけてなかったし、悪かったな。というか、着替え見られたところで気にしないさ」

「嘘、顔真っ赤だけど」

「…不可抗力だ」

キョンはがりがりと頭を掻くと、私が手に持っている箱を見て眉を寄せた。「そりゃなんだ」聞かれた私は待ってましたといわんばかりにそれを掲げる。

「キョンにおみやげ!食べてみて!」

本当はおばさんと妹ちゃんの分も買いたかったんだけど。予算の都合で1つです。
だからこっそりキョンにだけ食べてもらおうと箱を広げた私は、そこでふと思い立った。

「…キョン、ケーキとか、好き?」

「……嫌いじゃないが」

コーヒーを減糖して飲む、とか描写されていたような。
キョンはかすかに首を傾け、ケーキの箱を開いた。ふうん、と小さな声が聞こえて、ケーキが取り出される。

「相当甘いか?」

「ううん、多分甘さ控えめ」

「そうか。なら、コーヒーはいいな」

相当甘いんならコーヒーがいるのか。頭の中にインプットしつつ、私はキョンが豪快にケーキを口に運ぶのを見ていた。
3分の1をばくっとかじったキョンは、しばらくもぐもぐと咀嚼をしていたけど、かすかに目を見開き私を見る。

「…うまいな」

「でしょ!?お、おいしいでしょ!?」

ナイス山田さん!
…一応これで、山田さんのケーキがまずいわけじゃないっていうのがわかった。どこの店のだ?と聞かれて、私は曖昧に首を傾げる。うっかり来られると困るし…。

「えーっと、忘れちゃった」

「なんだそりゃ」

ポコンと軽く頭を叩かれ、その話題はこれで終了。残りを全部食べ終えたキョンは、私に手を合わせてごちそうさま、と呟いた。



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