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幸せの味


「まずはケーキを食べてもらいたいんだよ。味が悪いから来てくれないんだろうか…。お客さんに聞いたらおいしいって言ってくれるんだけどねぇ」

「え、あ、で、ではいただきます」

目の前に出されたケーキに手を合わせ、ガタガタ震える手をなんとか動かしてフォークを握った。ケーキは、詳しく説明されていないからわからないけど、全体的にピンクでベリー系のケーキのようだ。生クリームの中にかすかにピンク色が見える。苺をスライスしたものがケーキの頂上でずらりと円形に並べられていた。
フォークで少し切り、口に運ぶ。横に連続殺人犯みたいな人がいては心からおいしいとは思えないような気もしたが(失礼だぞ私!ケーキに人相は関係ない!)、口に入れた瞬間それは吹き飛ぶ。

「え」

「ど、どうかな?今度出そうと思うんだ、新作のケーキなんだけど」

「…おいしい」

「本当かい!?」

片手に鉈を持って居ても不自然ではない山田さんがガタリと立ち上がり、私の肩をがしっと掴んだ。
今から殺されるとでもいうような気迫を持って私を上下左右に揺らす山田さん。けど、不思議と今は怖くない。ケーキに魔法がかかってるみたいに、ものすごく、ものすごくこのケーキは、

「おいしいです。…すごく、ものすごく、おいしい。酸味があって…だけどところどころに控えめな甘みがあって、舌の上でふわってとろけて」

やばい。これは、おいしい。
食べたら幸せな気持ちになる食べ物って、あるだろう。今の私にはまさにそれだった。山田さん…最高です。

「ほ、本当に!?良かった、自信が無かったんだ。店にあんまりお客さんが来ないものだから、試食も頼めないし…良かった、良かったよ」

本当に嬉しそうな極悪面を目の前に、私はふっと吹き出した。なんだ、ちっとも怖くない。
よし、こんなにおいしいケーキなら全力で売り出してやる。この店を大繁盛させてやる!…あ、誤解の無いように。きちんとSOS団にも行きます。



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