[携帯モード] [URL送信]
山田さん


「えーっと………、キョン、私、今日さ、用事があってさ」

「…何があるんだ?」

ぎくっ。と、あからさまな反応をしてしまったかもしれない。
とりあえずクラスの女の子に誘われて、断れなかったと嘘を言っておいた。キョンは半信半疑の顔で、ならハルヒに言っておけよ、と言っただけ。
ごめんよキョン、と心の中で思いつつ、国木田くんに教えてもらったケーキ屋さんへと走る。比較的近いその場所は、人通りの多い場所に建っていた。

「…」

外装は、悪くない。
可愛らしすぎるわけでもなく、質素すぎるわけでもなく。適度にバランスの取れた、大人の女性、女子高生、誰でも気軽に来れそうな素敵な外観だ。
なんでこれでお客さんが店に来ないんだろう。…味?その場合は私にはどうしようもないけど。
店のドアを開くと、ぽつぽつとお客さんが座っているのが見えた。ケーキ屋さんで、テイクアウトもイートインもできるらしい。サービスで紅茶も出してくれるんだとか。
店内はいいにおいがして、途端私のおなかはぐるぐると動き出した。ケーキを食べるために来たんじゃないぞ、落ち着け私の腹よ。

「いらっしゃ………、…あ。もしかして、君、苗字名前さん?」

店の奥から姿を現した、20代後半くらいのガタイのいいお兄さん。
一瞬、店から出ようかと思った。
どうしてこの店が繁盛しないのか、その理由がわかった気がする。
店の外観が悪いわけではない、恐らくケーキの味が悪いわけでもない、――…つまり、お店のお兄さんが、

「はじめまして、国木田くんから聞いてるかな?僕は山田と言います。よろしく」

「……ど、どど、どうも、よ、よろしく、お願いします………」

……………めちゃくちゃ怖い外見をしていたのだ。
私は差し出された、熊のような大きな手を握って、ロボットのようにお辞儀をした。



前*次#

3/39ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!