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権限のない苦しみ


とりあえず、ハルヒが起きるまですることもないし、と思い、朝比奈さんと古泉と自分の茶を淹れなおし、再び腰を下ろす。
ぐしゅぐしゅと鼻をすすった朝比奈さんは、ごめんなさい……と呟きながら俺の差し出したコップを受け取った。

「……なんで謝るんですか?」

別に茶くらいいくらでも淹れますよ、と苦笑してみせると、朝比奈さんは違うんですと言いながらぶんぶん首を振る。やわらかく長い髪の毛がぱたぱたと肩口にあたってはねた。
そういう意味じゃないです、と言わんばかりの大きな瞳が俺を見る。

「あたしは……、いつもそうだけど、今回だって、何も手伝うことができなくて……」

「そんな、」

「いいんです、本当のことなんです。あたしは何も手伝えない、何も権限がないんです……!」

言ったかと思うと、またわっと泣きだした朝比奈さんを見下ろし、俺は困った視線を古泉に向けた。うまいこと言えない自分の口べたなところが嫌だ。フォローにもならないような、軽い言葉ばかりぽんぽんと頭に浮かんでは消えていく。
古泉も、うわべだけの言葉ならともかく、心から励ますためにはどうしたらいいのかわからないといった様子だった。
ああまた、こういったとき、名前がいたらなあ、と思う。どんな風に言えば元気が出るのか、どんな風に言えばその人の苦しみを少しでも和らげてあげられるのか、それを熟知しているような名前の言葉であれば、朝比奈さんだって顔をあげてくれただろうに。

「……ごめんなさい。言ってもどうしようもないことって、あたしも解ってるのに……」

「いえ……」

朝比奈さんがここまで感情的になるのも珍しい。いや、毎日非常に感情的であらせられるが、こう、なんて言えばいいんだろうか。本当に精神的に疲れているような、苦しんでいるような感じが。
でも、朝比奈さんだけがそんなに暗くなる必要なんてないんだ。むしろ現在の状況を考えれば、俺がもっと気に病むべきで。

「あまり、気に病まないでください。何もできないのは、俺も同じですから……」

「キョンくん……」

申し訳なさそうに朝比奈さんが顔をあげる。それとほぼ同じようなタイミングで、隣の名前の体がもぞりと動いた。



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