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別行動


もしも俺になにがしかの力があったのならば、落ち込んでいる(らしい)長門に、そんなに落ち込むな、俺がなんとかしてやるさと言ってやることもできる。いや、そもそも俺に力があれば、こんな話し合いをする必要だってないんだ。
普通が一番、身の回りにいる変な奴らの中で唯一俺が普通だとか、そんなことを考えて陶酔していた自分をぶん殴りたいね。
俺は何もできない。

「それでは……、今は様子見するしかできないのでしょうか」

閉鎖空間でないと力が発揮できない古泉は、今は俺と同じくただの人間だ。少なからず俺と同じようなことを考えているのだろう、表情は晴れない。朝比奈さんに至っては毎度泣いていらっしゃるのでなんとも言えないが、概ね同じことを考えているはずだ。
とりあえず、今は様子見以外に何もできない。ハルヒに、この世界に嫌気を覚えてもらうことができたら、もしかするとどうにかなるかもしれないが。しかしそれは危険な気がする。

「……様子見ならば一番危険性は低い。しかし、状況は変化しない」

「まあ、そうだろうな……」

じっとうつむいて自分の膝小僧あたりを見つめていた長門が、ふいに顔をあげた。何かを見つけたときのシャミセンのように機敏に首を動かし、どこか遠くを見上げる。ゆらゆらと水分で揺れているような瞳を見ていると、長門はしばらくして俺に視線を戻した。

「……どうかしたのか?」

「……」

長門は俺の問いかけには答えず、おもむろに立ち上がる。おい、と呼びかけても止まらない。すたすたと丁寧な動きでリビングのドアの前まで向かうとようやく立ち止まり、ゆっくりと振り返った。

「わたしは少し、出てくる」

「どこにだ?」

「用事」

答えになっているようななっていないような、と思いながらうやむやに返事をすると、長門はそう、と呟いてドアを開けた。今回は別行動をとるということか?と小さく問いかけると、長門は無言で俺を見る。肯定とも否定とも取れないような瞳だ。

「……あと少しで涼宮ハルヒが目を覚ます」

その言葉を置いて、今度こそ長門は出て行った。



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あきゅろす。
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