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揺れる希望


長門が原因でこの世界が一度変貌してしまったことがある。
その時、全選択権を与えられたのは俺だった。それほど重要でもないポジションに立っていると思っていたのに、いつの間にやら輪の中心に放り込まれたような急激さで、状況も呑み込めていないようなときに。
ただ、あれは例外だった。基本的に長門は、情報統合思念体の意思に反することはない。人間の社会における上司と部下みたいなもんだ。部下である長門は上司である統合思念体に従い、命じられたように動く。
何が言いたいのか、と言われそうだが、俺自身混乱していていまいち言葉がまとまらないんだ。長門は統合思念体から命令を与えられない限り動けない。冬のあの事件から、長門は特に周囲から注視されていたようだし、統合思念体がこの世界にいる限りは、もうあの時のように突拍子なことをできはしないだろう。次に問題を起こせば、長門自身がここから消される可能性だってある。
つまりは、

「……わたしができることは、ほぼない」

「…………」

数少ない希望が一つ潰えた。
茫然とする俺に、長門は一言、すまない、と呟く。いや、謝ってもらいたいわけじゃないんだ。そもそも長門に頼ってばかりの俺だって悪いし、いつまでも頼るだけじゃ何も成長しないさ。……いやいや、自分でどうにかできるレベルじゃないんだがな。

「……情報統合思念体は、何と?」

「現状観察を第一に。関与しすぎないレベルでの援助は許可されている」

「そうですか……」

古泉も疲れたような表情で、長門の言葉を受ける。
一瞬こめかみから何かに殴られたような衝撃を受けたが、まだ希望がなくなったわけじゃない。絶望するのはまだ早い。

「これから少し時間をおいても何の変化も見られなければ、朝倉涼子と同じく強行的に危害を加える派閥も現れるはず。もしその問題が浮上すれば、わたしが対応できる」

でもそれは、この現状がどうにかなるわけではないんだよな。

「……ごめんなさい」

長門が今度は消えそうな声で囁いた。



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