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五人の戸惑い


「……いえ、失言でした。すみません」

沈んだ調子で言われるとこちらが落ち着かない。気にするな、と言うこともできずに固まった俺に、古泉は苦笑した。別に落ち着いているわけではないが、特別取り乱しているわけでもない。ただ、何に戸惑えばいいのかいまいちわかっていない、それだけだろう。
朝比奈さんが何かを言いたげに口を開いたが、ハルヒが戻ってくるのを見つけてすぐに口を閉じる。

「はい、熱いから気をつけて」

「……ありがとうございます」

カップを受け取った古泉がお礼を言い、朝比奈さんは青ざめた表情でゆるゆる頷いた。いつもは丁寧にお礼をする朝比奈さんが口を閉じたままとは。これはえらく参っているようだ。
とたんに場が静かになる。こんなときにはしゃげるほど、ハルヒも非常識ではなかったようだ。もしこれで、ハルヒと名前の姿が入れ替わったとか、ただそれだけのことであれば、多少は笑えたものの、人までいなくなっているのだから笑えない。

「…………」

静かに緑茶がなみなみと入ったカップを傾けていると、ふいに右側に何かが倒れてくる。視線を下ろせば、ハルヒ(形こそは名前なので少なからず驚いた)が、俺にくてんともたれかかり、眠っている。
こんなときに寝るな不謹慎だろうが、と言うべく口を開いた俺の言葉をさえぎるように、長門が鋭く言った。

「眠らせた」

「……そうか」

その言葉が意図するところを、恐らく俺以外の全員も気づいただろう。あまり言いたくはないことだが、今回の話し合いはハルヒがいると難しい。
長門にありがとうと言うべきかどうか迷い、それはそれで不謹慎だろうと思って口は慎んだ。



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あきゅろす。
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