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消えた存在について


家の中に招いたはいいものの、語らうことなど特にない。気になることは多々あったが、ハルヒがこの場にいることを考慮すると口にすることはできなかった。ハルヒは物珍しそうにきょろきょろと室内を見回しているが、何がそんなに楽しいんだか。

「……飲み物でも飲むか?」

「それなら、あたしが用意するわ。なんか体動かしてないと落ち着かなくて」

以前俺の家にSOS団が集結したことはあるから、ハルヒは俺の家の中を知らない、というわけではない。妹の手伝いをしにキッチンに下りたときのことを覚えているのか、迷うことなく水屋の方へ向かっていった。
静かなままでも気持ち悪いのでテレビをつけてみたが、どこもかしこも砂嵐だ。当然だ、放送する人間がどこにもいないのだから。
それでも沈黙が続くよりはましだろうと砂嵐をつけっぱなしにしていると、長門が薄く口を開いた。

「正確には」

「……?」

「苗字名前がこの世から消失した、というわけではない」

「……え」

目を見開いて長門に詰め寄る。落ちついて、と細い声で留められたが、落ち着けるはずがない。ハルヒがカチャカチャと何かを動かしている音にまぎれて、長門は淡々と続けた。

「情報としては残存している。詳細は現在解析中」

「情報統合思念体は……、この世界に、いるのか?」

「統合思念体は、この世界に生きる人間ではない。よって銀河系には残存している」

そうか、と頷いてみたところで、やはりまだ安心はできない。情報統合思念体が俺たちに協力的というわけではないし、必ずしも俺たちを助けてくれるとは思えないので、期待はしないほうが得策だろう。
とにかく、名前がこの世から消失したわけではない、ということには多少は安堵した。谷口や国木田、俺の家族たちのことを考えれば手放しで喜べはしないが。

「喜緑さんたちは……、お前の仲間はどうなったんだ」

「涼宮ハルヒに人間として認識されていた個体に限り消失。地球上での観察を行っていなかった同士については残存している」

「…………」

その一言でだいたいのことは理解できた。いや、最初からなんとなくはわかっていたことだが、確信が持てたと言えば正しいだろうか。
しかし、疑問が残るところはまだまだある。

「……なんで、ハルヒはあの姿をしているんだ?」

「……それについては、わたしよりも彼のほうがより正確にあなたに伝えることができるはず」

「彼?」

そう、と長門がつぶやいた。と同時に鳴るチャイム。誰が来たのか、ということを考えるよりもはやく理解した。俺が理解したことを察知したのだろう、長門が薄く眼を細めて、俺の肩ごしに何かを見る。
そう、彼。また、細い声が吐き出された。



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