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違う人


誰だ、と思いはしたものの、電話が切れたこのタイミングで相手が誰も何もないだろうと思いなおし、あまり深く考えずドアを開ける。予想通り、開いたドアの向こうには長門が静かに立っていた。
そして、予想外の人物がその背後に。

「名前……?」

下唇を噛み、なぜか暗い表情でそこに立っている名前。しかも珍しいことに、着ている服は長門と同じく制服だ。いや、本来なら今日は授業がある日なのだから、制服を着ていて珍しいなんてことはないのだろうが。何もせず普段着でいる俺がおかしいだけだな、たぶん。
長門が俺に何かを訴えかけるような瞳を向けてくる。何かを言いたいが、事情があってそれを口にすることができない。そんな瞳だった。

「とりあえず、何があったんだ?これももしかして、ハ――」

ハルヒの、と言いかけた俺の口に、長門の手が伸びた。言うな、とでも言いたげに。突然のことに目をぱちくりさせる俺を、沈んだ表情の名前が見る。とにかく俺の言葉を遮ったということは、俺が言おうとしていたことは長門にとって都合がよくない、ということだ。黙ることにする。
唇を閉じるとほぼ同時に長門の手が離れていった。

「……ええと、とにかく。名前、お前どこに行ってたんだ?ていうか、こんな大変な事態になってるなら、俺を起こしてくれたらよかったじゃないか」

「…………」

困ったように名前が視線をうろつかせる。

「……どうかしたのか?」

「…………」

困った。こいつに黙られてしまうと、俺にはどうしようもない。長門は名前が何かを言いだすのを待っているようで、自分からは一向に口を開こうとしない。

「とりあえず、こんなところで立ち話もなんだから、外に……」

「キョン」

ようやく名前が口を開いた。いつもより心なしか低く聞こえる声。背中を向けかけた体勢で中途半端に首だけ振り返る。
ひどく強い瞳に、名前に感じる気持ちとは何かしら違うものを覚えた。

「違うわ」

俺の心を読まれたのかと思うようなタイミングで出される声。俺を見上げるその表情は、『名前』では、なかった。

「……あたしよ、キョン」



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