鳴るチャイム
頭が真っ白になって、パニックに陥りそうになる。その瞬間、携帯が大げさに震えた。いや、大げさに震えたのは俺の肩だったと思う。一瞬息が詰まって、一拍置いて息を吐き出す。
着信だった。
「長門……?」
混乱しかけていた頭が一気に冷えてくる。相手が長門というだけで、なぜか安心した。藁にもすがる思いとはまさにこのことよ、と思い知ったね。
通話ボタンを押すつもりで指を動かしたのに、震えか汗か戸惑いか、爪先がかすって全く関係のないボタンを押してしまう。落ちつけ。落ちつけ。数秒経ってから通話ボタンを押して、携帯を耳に押しあてた。
「も、しもし、なが」
『落ち着いて』
開口一番落ち着いてときたか。普段あまり俺の言葉をさえぎったりしない長門がここまで言うとは、よほど俺も動揺していたのだろう。進言どおり落ち着こうと、深呼吸を繰り返す。
「ええと……、たぶん、落ち着いた」
『そう』
淡々とした長門の声でさらに落ちつく。
『大丈夫』
長門の言う「大丈夫」ほど安心できるものなんてないね。
俺を安心させてくれようとしているのか、どういう意味の「大丈夫」かはわからなかったが、俺はうんうんと電話越しに頷いた。
『苗字名前はこの世界に存在している。安心して』
「え……、って、ちょっと待て長門、その話を詳しく、と言うかだな、今がどんな状況なのかを教えてもらいたいんだが」
『了解した』
了解した、の言葉が長門の口から飛び出たかと思った瞬間、通話が一方的に切られる。ツー、ツー、ツー、という短い音を聞きながら唖然としていると、今度は家のチャイムが鳴った。矢継ぎ早にあらゆることが起きて頭がなかなか働かない。
ぼうっと突っ立っていると、まるで俺を急かすようにもう一度チャイムが鳴った。
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