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世界に五人


翌朝、妙にスッキリと目が覚めた。
休日に好きなだけ眠ったときの感覚と似ている。昨日そんなに早く寝ただろうか、と考えてみたが、日付が変わってから寝たはずだからそんなに早く寝たというわけではない。
まあいいか、妹に朝から体に乗っかられるよりは、自主的に起きる方がいいだろう。そう考えながらモゾモゾとベッドから出て時計を確認すると、

「…………十時?」

そりゃもう目が点になったね。
唖然としたね。
ぽかーんとした表情のまま、とりあえず携帯を確認する。普通に授業が始まっているはずだから、なんで学校に来ないの!という内容のメールがハルヒあたりからきているんじゃなかろうか、と思ったからだ。
だが、俺の予想に反して携帯にメールはきていなかった。

「……珍しいな」

小さくつぶやいて携帯を閉じ、部屋を出る。妹が起こしに来なかったのも妙だ。オフクロだって学校がある日にはさすがに起こしてくれる。起きなかったから起こさなかったわよ〜、と言われつつ遅刻ギリギリに起こされたことはあるが。
おまけに名前が起こしに来ない。妹が俺を起こさなければオフクロが、オフクロが起こしに来なければ最後の良心であるはずの名前が来るはずなのに。
もしやあまりに起きなくて全員に見放されたか?
まさかなあ、そこまで寝起きが悪くはなかったはずだ。階段を降りてリビングに入る。誰もいない。電気もついていない。

「……おーい、名前ー」

一応声を大きくして聞いてみたが、返事もない。
これは少しおかしいな、と思い、部屋に戻った。ベッドの上に投げていた携帯を掴み、アドレス帳を開く。

「!」

瞬間、目を見開いた。どういうことだ。今まではアドレス帳を開いた瞬間、大量の名前が一気に表示されていたというのに。ない。ちっともない。人がいない。空欄。空欄に空欄が続く。
いや、残っていることは残っていた。あ行に朝比奈さん。か行に古泉。な行に長門有希。す行に涼宮ハルヒ。
それだけ。

「…………名前…」

あいつの名前がどこにもない。
どっと背中に汗が噴き出る。頭の中に浮かんできたのは、ある女性のはきはきとした声だった。

『――もしも世界に、人間が五人しかいなかったら?』



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あきゅろす。
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