ないしょばなし 「そうだよ!」 「…すみません。不快だったでしょう」 「何言ってんの。すごく嬉しかったよ、これからもそう呼んでね?」 おいお前ら、何俺たちを蚊帳の外にして仲良くなってやがる。 いつもは見ない、珍しい古泉のきょとんとした表情が見物だが、何かおもしろくないぞ。なんて思っていると、古泉はにこやかに微笑んで、恭しく頭を下げる。 「はい。嬉しいです、ありがとうございます。これからは名前さん、とお呼びさせていただきますね」 「…………うん、それはいいんだけど」 「はい?」 まだあるのか。 朝比奈さんは俺の腕からやや手を外し、うろうろと視線を彷徨わせ、固まっているカマドウマを見てひっと肩を浮かばせる。「し、死んだんですか?あれ、生きてるんですかぁ!?」…だいぶテンパっていらっしゃるようだ。 「………ちょっと耳を」 「?」 こっちを一瞬見た名前が古泉をちょいちょいと引き寄せ、しゃがむよう指示する。 古泉は大人しく、言われるがままにしゃがみこんでいた。名前と目線の高さが合うくらいの高さまでになったとき、名前がまるで内緒話をするように手でメガホンを作る。 「……………」 古泉は今度こそきょとんと目を丸くして、じいっと名前を見つめた。それから、にっこりと――いつもの、さわやかな、というよりは、無邪気な、がぴったりくるような笑顔を浮かべて、ありがとうございますと一言呟く。 なんだ、何を言ったっていうんだ。気になるじゃないか。俺がいやにモヤモヤした気持ちを覚え始めた頃、ようやく朝比奈さんが落ち着きはじめた。 前*次# [戻る] |