部長カマドウマ
カマドウマという虫をご存知であろうか。
ちなみに俺がいきなりこんな質問をしたのはちゃんとした理由がある。理由を聞かれたら一言で返すしか無い。目の前にいるからだよ。
よく見たい人間がいればぜひとも見せてやりたいぜ。おっきいぞ。全長三メートルはあるだろうな。細部までじっくり見えるぞ。
「なんだ、こいつは?」
俺の問いかけに「カマドウマでしょう」と冷静に古泉の返答が入る。
「それは解ってる。俺は幼稚園時代に昆虫博士として有名だったんだ。実物を見たことはないがウオマイとクツワムシの区別だってつくぞ。そんなことはいい、これは何だ?」
「この空間の創造主」
「こいつがか?」
「そう」
長門が答えた。
名前は無邪気に「ほあー、これがカマドウマ…。でっかいなー、なんかチクチクしてそうだな」などと言いながらカマドウマを見上げている。お前、少しでもいいから怖がるとかしてくれ。「キョン、怖いよう!」なんて言うお前を想像していた俺が馬鹿みたいだから。いや、実際馬鹿なんだが。
「おや。不完全ながら僕の力もここでは有効化されるようですね」
古泉が片手を上げる。その手の上に、ハンドボールくらいの大きさの赤い玉が浮かんでいた。ふよふよとかすかに上下左右に揺らめいて、怪しく光る。威力は十分の一だそうだ。そりゃそうだろうな、本当なら体全体が球体になるはずなのだから。随分縮小されたものだ。
「これで十分だと判断されたのでしょうか?」
「…………」
長門は一切反応しない。古泉は予測していたとでも言うように、微笑んだだけだった。
重ねて質問をする俺に、長門はやはり俺には理解できない言葉でつらつらと答える。やはりその答えは、俺はわからなかった。
「ひょっとして、部長さんは巨大カマドウマの中ですか?」
「そのもの」
「名付けて部長カマドウマ」
「…名前、ちょっと黙っていような」
真剣な顔をして全く今の話題に関係の無い(ある意味あるのか?)話題を出す名前の頭をぽんぽんと叩いて、話を続ける。古泉の話によれば、このカマドウマを倒せば部長氏の部屋に帰れるらしい。
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