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やさしいひと


「あたし、安心したんです」

「へっ?」

部長氏のマンションに入ろうとしたところで、みくるちゃんが呟いた。やや歩調を緩めてみくるちゃんの横に並び、きちんと話をしようと体を傾ける。みくるちゃんは私を見ないまま、まるで胸の中に溜まっているもやもやした気持ちを吐き出すように呟く。

「名前ちゃんは、普通の人間なんでしょう?異世界人だけど…。キョンくんみたいに、普通の人と変わらないでしょう?けど、あたしみたいなダメダメな未来人でも、当たり前のように受け入れてくれた」

「………」

「こないだ三年前に行ったときも、何も言わないであたしのお願いを聞いてくれた。すごく、嬉しくて、きちんとあたしのことを受け入れてもらえてるって、安心したんです」

「そんな……」

ちくんと胸が痛んだ。みくるちゃんのことは知っていたから受け入れることができたけど、何も知らない状況で「わたしは未来人です」なんて言われて何も言わずに受け入れることができるかと聞かれたらすぐには頷けない。
みくるちゃんは苦笑して、いきなりごめんね、と続けた。

「今言うような話でもないけど、ずっと前から言いたくて。今なら涼宮さんもいないから、言えたの。名前ちゃん、ありがとう。名前ちゃんみたいな優しい人に会えてよかった」

「そんなこと、」

言いかけてとめる。みくるちゃんはすうっとキョンの後ろをついていった。部長氏の部屋の前にたどり着き、私は複雑な表情を浮かべてキョンの後ろ頭を見つめる。
私は、優しくなんてないんだ。ただ事情を知っていたから、それだけで自分で勝手に仲良くなったような気持ちになって。信じてくれてるみくるちゃんを、今私は騙している(ことになるのだろう)。気分が重い。
突然振り返ってきたキョンが、私の顔を見るなり驚くように目を丸めた。それから、みくるちゃんと私を交互に見て、何事かを勝手に自分の中で完結させ、私の頭を撫でる。あやしているつもりなのだろうか、気にするなと言ってもらえているような気がした。

部長氏の部屋の中に入るとやはり奇妙な感覚にとらわれる。息苦しいような、悲しいような。こんな感じのものが、閉鎖空間なんだ。こんな場所で古泉くんは戦っているんだ。

「この部屋の内部に、局部的非侵食融合異時空間が制限条件モードで単独発生している」

さっぱりわからん、といった表情を浮かべて私を見下ろしてくるキョンに苦笑して、有希よりはわかりやすく端的な説明をするため口を開いた。



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あきゅろす。
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