擬似閉鎖空間
ほぼ家捜しに近い状態で、棚を開けるわ机は倒すわ、ベッドは乱すわポスター剥がすわで、幼稚園児を宥める保育士のような状態の俺は四苦八苦していた。勿論ハルヒ以外の面々は大人しく見る程度に自重しているさ。
かと思えばボーッと天井を見つめていた名前が、苦しそうに眉を寄せた。「どうした?」問いかければ、名前ははっと気づいたように目を丸め、首を横に振る。
古泉もどこかいつもより険しい色を宿した笑顔だったし、なにかこの部屋には違和感でもあるのだろうか。口を開きかけた瞬間、服の裾を引っ張られる感覚に急いで体を後ろに倒す。
「出たほうがいい」
「僕も同感です」
おいおい、長門、古泉。おまえら、何があるって言うんだ。
名前はこの二人が外に出ることを提案した時点で、ホッとしたような表情をした。もし誰も言わなければ言うつもりだったのだろうか、浅い呼吸を繰り返す名前に手を伸ばそうとして、ひとまずやめる。
ワラビ餅を発見して無駄に喜ぶハルヒを遠めに見つつ、俺は部屋の中をぐるりと見渡した。古泉がこの部屋に違和感がある、閉鎖空間に似ていると言ったが、俺にはそんな違和感は何も感じない。ただの人間だからな。
「閉鎖空間って、こんな感じなんだ………」
ぼそりと名前が呟いた。古泉がそれを耳聡く聞き取り、名前に近づいていく。いたわるように名前の肩に手を乗せているが、俺から見て、あんまりその行動に意味は無いと思うぞ。
「…ご気分が優れないようですね。外に出ましょう」
「大丈夫。なんていうか、ちょっと息苦しいだけ。へいきだから」
そう言って笑った。
繕ったような笑顔ではないので本心からの言葉だとは思うのだが、しかしやや青ざめた顔は痛々しかった。
俺は溜息を一つ落として、ハルヒに向く。暢気にワラビ餅を食っているその頬を殴ることが出来たら俺は喜んで手を出したがな、と心の中でもうひとつ溜息を落としてから、口を開いた。
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