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(Aglaia)



 ゆるさないから、という声がまた聞こえて、目が覚めた。

「…………う」

 起き上がる。腰やら足やら、いたるところがいろいろ痛い。
 なんだか久しぶりにあの人の夢をみたなあ、と思いながら、瞼を覆った。別に泣いているわけでもないのに、彼の夢を見たあとはひどく目が痛い。あの、やさしい声が、まだ耳の中に残っている気がしてほんわりとしていると、ようやく周囲の景色がはっきり見えるようになった。

「……あれ、ここ……」

 私が最後に意識を失ったはずの場所じゃない。すぐそばに階段と、またすぐそばに大きな扉がある。そして私のすぐ横に、青白く光る蝶が飛んでいた。まさかシャドウかと思ったが、こちらに何かをしてくる様子はない。ただ同じ場所を、ぱたぱたと飛んでいる。
 最後に見たはずの彼らの姿もなかった。そう言えば、なんで彼らがここにいたんだろう。シャドウのいる建物に入ってこられたということは、もしかして彼らもペルソナ使いなんだろうか。

 ペルソナ使い。その言葉に、胸が痛む。まさか私たち以外にいるとは思っていなかった。
 だって、あの夜の時間は消えて、ペルソナは、その時間でしか使えなかったはずだ。でもこの世界にはシャドウがいる。シャドウがいるから、ペルソナも使える?考えるうちに、頭が混乱してくる。
 とにかく、ここにいてもどうしようもない。また彼らを探すしかないだろう。ここはまだシャドウの出る大浴場だ。そんなところに、彼らが私を置いて帰るとも思えない。
 すぐ横の扉に耳を済ませると、何か大きな音がした。少し遅れて、私を助けてくれた、あの灰色の髪をした人の声が聞こえる。防御しろ、と言っていた。そしてまた、大きな音。シャドウと戦っているのは、見なくてもわかる。

「だめ、だよ」

 気づけば、声に出していた。そう、だめ、だ。あの人が、ありさとさんが、守った世界。平和になったはずの世界を、また、シャドウに壊されるわけにはいかない。あの人が守ったこの世界を、人を、またシャドウが壊すのなら、私はそのシャドウを壊さなければならない。私が、守らなければ。人と、この世界を、まもらなければ。

 そうだ、私の鞄、あの灰色の人が持っていた。周囲を見渡しても、それはない。彼が今持っているか、別のどこかへおいてきた可能性が高い。もしも近くにないのなら、召喚器を使わずにペルソナを喚ぶことだって仕方ないと、覚悟を決めた。

「わたしの鞄、どこですか」

 扉を開け、中に入る。途中、ギガスと一緒に立っていたあの人が姿を変えていた。そうか、あれがシャドウだったのかと、今更合点がいく。だからこそ、私の見たあの人とは、性格や見た目に雰囲気、それぞれが違ったんだ。
 灰色の人は目をぱちくりさせたままこちらを見ている。今は見合っている場合じゃない。

「鞄はどこですか」

 彼はまだぼうっとした表情のまま、どこかを指さした。その先に、見慣れた私の鞄が置かれている。なんでここまで持って入ったかはわからないが、どこかへ捨てられているよりはましだ。そちらに駆け寄って、中を探す。シャドウが声をかけてきているけれど、そっちに集中する余裕はない。

「あった……」

 鞄の底から取り出した、召喚器。怪しいものと思われて没収されてはいないだろうかと思ったけれど、そんなことはなかった。安心しながら、ホルスターから抜く。
 ぼろぼろの彼らの前に立った。そう、ニュクスの前に立ったときのような、威圧感、絶望感は感じない。あれに比べたらきっと、どんなシャドウも、弱い。

「…………」

 ゆっくりと、唾を飲む。

「苗字さん、だめ!」

 大丈夫。私は勝てる。

『邪魔するんじゃないよオォォ!!』


 お願い、来て。そう思いながら、引き金を引いた。




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