蜃気楼 08 「ねぇ…『昼』。お前はイヴをどう思う?」 まるで独り言のように聞こえるそれは、間違いなくヨリの中に存在する、二つの人格の会話だった。 「そうだよね。まだ僕もあまり分からないよ。けど、」 ヨリ―――『夜』はちらり、とイヴを盗み見た。 そして。 「イヴ」 僅かながら、ヨリの口角が上がった。 「なってあげる」 一拍息を置き、続ける。 「仲間なんてよく分からないんだけどね」 含み笑いをし、ヨリは白いその手をイヴに差し出した。 「握手って言うんだって。挨拶みたいなものらしいよ?……夜叉…が言ってた」 ヨリの行動に、々イヴは少々戸惑いを見せたが、すぐに手を合わせ、互いにしっかりと握り合った。 「……本当に…」 「嘘なんて言ってどうするのさ。『昼』、も良いって言ってる」 そろりと手を離したイヴの呟きに、ヨリは透かさず反論を返した。 「なんか、話が凄い進んでるぞ?」 そう放ったのは、シヴァだった。ゼラもシヴァも完全に置いて行かれている。イヴとヨリとの間だけで話が進んでいってしまって、二人は当事者でありながら、完全に蚊帳の外だった。 「まぁ、仲間になるんだったら良いじゃないか。イヴが選んだんだ。『夜人』の夜叉じゃなく、ヨリを、な」 しかし。 まだ問題は残っている。『夜人』最高指令者の、本物の夜叉はどうするつもりでいるのだろうか。 「ヨリ。夜叉はどうする」 「あぁ…。それなら『昼』が考えてくれてる。ねぇ呼んで、『昼』を。やり方はもう分かるでしょう?」 『夜』はそう言うと、灰の目に帷を下ろすように眼を閉じた。 先程『昼』に教えて貰い『夜』呼んだように、今度は『昼』を呼ぶ。 「『昼』」 ヨリは、その呼び掛けに間髪おかずにスゥと瞼を上げた。 『昼』だ。『夜』の時とはやはり、目付きが違う。 「イヴ。ありがとう」 『昼』は満面の笑みでお礼を言った。『夜』の時は見たことの無い笑顔だった。 「別に。俺は誘っただけだ。決めたのはお前らだろう?」 イヴの顔に、自然と柔らかな笑みが浮かんだ。 こうして見ると、やはりまだ十代の子供だ。 その手は、その身は血に染まってしまっているけれど。 「『昼』。本物の…『夜人』の夜叉はどうする?」 先程からの疑問を、今度は『昼』に投げかけた。 恐らく、『昼』の方が『夜』よりも頭が回るのだろう。同じ人間だとしても、人格によって頭の使い方が異なるということか。 いや、もう少し正確に言うとするなら、『昼』は理性を、『夜』は本能をヨリという一人間の中で司っているのかもしれない。 「あのさ。行ってもいい?」 遠慮しがちな声がイヴ達の鼓膜に届いた。 「どこだ?」 「ウェルシア連邦ラチカファングの……『夜人』総本部。そこに夜叉がいるから」 > [*][#] |