蜃気楼 07 会ったこともない者の力を信じるよりも、今、目の前にいる確実に力量が分かる者の力を信じたい。 殺し屋としての『夜』の力。 そして、その『夜』と共に生きている『昼』の力。必ず、どちらの力もイヴにとって必要になる筈だ。 利用しろ。 あの人に言われた言葉。 ゼウスの能力を解放するだけの、名ばかりの仲間だと思っていた。 だが。今なら。 ゼラと出会い、シヴァ以外に心を開く術を知った。 シヴァが傷付き、我を忘れるほど怒り、悲しむこての辛さを知った。 もうあんな思いはしたくない。 ヨリを連れて行かないで、後悔はしたくない。 ―――随分…欲深くなったものだ。 悪い気はしないが。 「何を…っ」 ヨリの殺気が消えた。鋭く光っていた眼も、鈍い輝きに変わる。 イヴの紅の瞳を見つめるのは、黒みがかった灰色。 「僕に、仲間になれって言ってるの?」 ぐにゃり、と唇が歪んだ。 ヨリは目を細くし、イヴに問いかけた。 「そうだ」 「『夜人』を辞めて俺と共に来い」 カランッ… カタカタとヨリの肩は小さく震えていた。握られていたナイフは手から滑り落ち、乾いた音を立てて柄から着地した。 「意味、分かんないよ…っ!?僕に何を…!!」 狂う。 狂う。 狂った夜に銀が光った。 「『昼』と一緒に、俺の力になれ」 くるう。 クルウ。 ねぇ。 『昼』。 お前は、 聞いて。 『夜』。 君は、 ―――僕が好き? あぁ。 分かっていた。 本当はずっと恐かった。 夜叉は、僕を脅していた。 「殺さなきゃ殺してあげるよ」って。 僕が消えたら『昼』も消えてしまうから。言う通りにするしかなかった。そうしなきゃ、僕と『昼』が殺されてしまう。 あぁ。 分かってた。 本当は知っていたよ。 『夜』が僕のことを思って殺人に手を染めていたこと。 僕はそれを利用してたんだ。 人間の死んだ姿がどうしようもなく醜く思えて、全部『夜』に任せていたんだ。 ゴメンネ。 ごめんね。 ありがとう。 > [*][#] |