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蜃気楼
10




「ゼラ、其れは…俺が食べてもいいものか?」


御盆の上を指差して問う。ゼラは小さく笑ってイヴの前に差し出した。


「甘い物は大丈夫みたいだな」


ゼラは横でクッキーを頬張っているイヴを見た。

やはり、未だ子供だ。

こんな子供が…俺を探していた?一体、どういうことなのか。



「おい。顔と考えてることが合ってないぞ」


突然指摘の言葉をぶつけられ、どうしようもなく動揺した。

鋭い奴だ。

イヴはクッキーを全て食べ終えると、満足そうに紅茶を啜った。


喋らなければ普通の子供と何ら変わりないと思う。

少なくとも、見た目は。

雰囲気はどうしたって10代の子供が醸し出すようなものではない。

その雰囲気に、あの生意気で妙に大人びた口調が加われば、どんなに親しい者でも気が引けるだろう。


「ちょっとな」


話を誤魔化そうと曖昧な返事をしてみた。


鋭敏なだけではない。

洞察力も半端ではないらしい。


「ゼラ、お前はこの世界をどう思う」


突然、されど静かに問われた。


そんなの、


「………大嫌いだ」


理由は簡単、明快。



11歳の時に、

戦争の所為で、

世界の所為で、

俺の所為で、


俺は家族を失った。


俺はこの非道な世界で唐突にたった一人になってしまった。

どうしようもなく乾いた日々を過ごしていた。

家族への思いは、枯渇することはなかった。







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