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短編
食事のあと
※【最後の確認、のち食事】の続き




「かーわいいなー」


ザワザワガヤガヤ、呼び込みの声や時々上がる歓声。
きょろきょろと周りを見回して勧誘におののいている新入生たちは大変可愛らしい。

端っこにある棟の外階段から下を見下ろす。こんなところでもこんだけ人がいるなら大通りんとこはすげぇことになってそう。


二歳くらいしか変わらない。下手したら同い年もいるだろうになんでこんなに幼く見えるのかね。


「俺が?」


横にぬっと影が差す。じろりと横目で見上げたら、不機嫌そうな顔が近くにあった。

「近いちげぇ」
「は?近いのが違うって?もっと寄れって?」
「あーもーうざーい」

べしっと頭を叩いて黙らす。一応静かになったから改めて階下のひしめく新入生たちを眺める。

良い天気である。日の光に照らされて、なんかみんなキラキラに見える。眩しい。心の中は夢と希望で溢れてるんだろうなぁ。

「またなんかロマンチックなことでも考えてんの?」

若干の呆れた声にイラッとして横を向く。
案の定、呆れた顔が俺を見下ろしていた。

「ちげぇよ」
「じゃあなんだよ」
「……昔はお前ももっと可愛かったのにって」

いや実際そうだし。こんなふてぶてしくはなかった。

へっと笑えば、ふてぶてしい男、ノラがキョトンとした顔をした。あ、珍しい。

と、思ったのも一瞬で、次の瞬間には見慣れた皮肉な笑みを浮かべていた。

「今も可愛いだろうが」

そしてずいっと顔を近づけてくる。間近にあるノラの顔は相変わらず白い。白過ぎて太陽の光に当たったら透けそうだ。
ザッと風が吹いて少しうねる黒髪が揺れる。最近かけたパーマはムカつくほど似合っている。

ウザそうに髪をかき上げるノラに言ってやる。

「いーや昔の方が可愛いかったね。最近なに色気付いてんの?前は髪とか服とかどうでもいいって顔してただろうが」
「は?……あぁ、だって彼氏はお洒落な方が嬉しいんじゃねぇの」
「はー?そんなん、」
「あと女避け。あんたの。すぐ誰彼引っかけるもんで」

なんじゃそら人を尻軽みたいに。
「人気が分散するじゃん」とあっけらかんと抜かすノラはアホなんだろうか。お前もモテたら意味ないだろうが。

「ていうかそんなん先輩もじゃん。焦って逃げまくってオロオロしてたの可愛かったじゃないですか」
「可愛くねぇ」
「最近なんか慣れてきてつまんないすね」

は?つまんないだとコラ。

「じゃあ何よ、お前は逃げまわってた方が良かったわけ」
「は?」

ノラが眉間に皺を寄せる。自分から言っといてキレるとは何事だ。

「それなら逃げますけ、ど」

最後まで言う前に、ノラががしっと腕を掴んでくる。余裕そうというかダルそうというか、さっきまでの顔とは全然違う、イラついた顔。


「それなら地の果てまでも追いかけますけど」


あ、やば。


「……ぶっ」
「……あぁ?」

あ、吹き出しちゃった。

ひっくい声で「何笑ってんの?」と言うノラに「だって何これキモい」とケタケタ笑ってやる。


だって、今の、考えなくてもただのバカップルの会話じゃん。


笑いを堪えきれずにしゃがみ込む。ひーひー言ってたら頭をがしっと掴まれた。顔を上げる。

不機嫌絶好調のノラ。笑い過ぎて涙でボヤける。


「ほんと、昔の方が可愛かった」

ボソッと言われた言葉に、口端を吊り上げる。



「でも好きなんだろうが」


返事はない。ないけど「当たり前だろ」と聞こえる。
だって、こいつの顔は思ってた以上に雄弁で、この一年で暑苦しいほど熱い視線をもらった。

こいつが俺を死ぬほど好きなのは、もう一般常識並みにわかりきっている。


「そりゃ慣れるわー」
「……あんたのその、言葉が足りないとこは本気で腹立つ」
「そっくりそのまま返すわ。たまには言葉で示したまえ」
「好きですよ死ぬほど」


アッサリ堂々と言ってのけたノラに笑う。


たまにはいいだろ。だって春だし。

バカップル上等だ。



「よく出来ました」と囁いてから、不機嫌に歪められたノラの唇に噛み付いた。





春の陽気に誘われて



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あきゅろす。
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