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本編
12年前




「さくら、お前俺ん家こい」


弁当を突いていた手を止めて、俊也を見る。

俊也はぶすりとした顔をしていて、でも俺をじっと見ていて、真剣なんだとわかった。まじまじとその顔を見つめると、俊也がまた「俺ん家こい」と言った。意味がわからない。

「……もう来てるよ?」
「ちげぇよ馬鹿。俺と住めっつってんの」

住め、って。

「……なんで」

急にどくどくと胸が苦しくなった。息がしにくくなって、がんばって出した声は小さくて震えていた。

俊也はおれをこわい顔のまま見続ける。

「もうあそこに置いとくのは限界だから。見てらんねぇから。俺が養っていけそうだから」

何かを読んでるみたいにぽんぽん言って、俊也は口を閉じた。その言葉が頭と心臓に突き刺さっていくみたいに、どんどん息が苦しくなっていく。


養う。

あそこを出て、俊也と住む。

俊也と暮らす。


「……やだ」

なんでだろう。泣きたい。苦しい。

手から力が抜けて、からんとハシが机に落ちる。俊也は目をそらしてくれない。こわい顔のまま。


「やだじゃねぇ。決めた。俺の養子にする」


だめだ。

心臓が爆発しそうだった。胸が、頭が、目が熱くなって、ぶわっと涙が出てくる。こわい顔もよく見えなくなる。

「……泣くなよ馬鹿」
「ひっ、ぅ、やだ、やだぁ……!」
「何がだよ馬鹿。納得しろ馬鹿。お前も認めねぇと親子になれねぇんだよ未成年」

じゃあ、じゃあ認めない。

親子になんかならなくていい。

空気がうまく吸えない。苦しくてせきが出る。舌打ちが聞こえて、背中に手があたる。大きな手がゆっくりとおれの背中をなでる。

「おいさくら。聞け」
「ぅ、やだ、あ、っ、ぅー……っ」
「お前が俺を嫌ってないのは知ってる。だから俺は無理矢理お前を俺の子供にする」
「っ、」
「俺があのクソ野郎と違う“親”になってやる。だから認めろ」
「ぅ、ぁ、っあ」
「俺んとこにこい」


いやだ、こわい。ひどい。

大きな手が背中をなでる。やさしい。

俊也はやさしい。

ずっとずっとやさしい。

やさしくて、守ってくれて、甘やかしてくれて。


俊也は俊也のままがいいのに。
“親”なんか、いらないのに。



“親”なんかになってほしくないのに。





大声で泣くおれの背中を、俊也はずっとなでていた。




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あきゅろす。
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