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番外編
2




アズマと名乗った少年は、見たことがないほど真っ黒な目と髪をしていた。聞いてもないのに年齢とここでの立場を言われて、思わず漏れた声は凄みのある笑顔に黙殺された。


獄中で見たときは気付かなかったけど、外に出て見たその髪は陽の光に透けてツヤツヤしていて、高い紡ぎ糸みたいだった。


「それじゃ、まずは寮かな。それから皆に……や、先に服作りに行くか」

一人頷いた少年は、次に俺を見上げて「でかい」と嫌そうに呟いた。

「俺あんまりでかいほうじゃないけど」
「わかってますよ。俺よりって意味です」

小さい方が目立たなくて良いのに。

あっちじゃ小さい奴は重宝されてた。だから女子供は大事な戦力になる。

そう言おうとしたけど、この少年にとってはどうでもいいことだなと思ってやめた。


二人でゆっくり家の間を歩いていく。
さり気なく周りを確認して内心驚く。ひしめく露店や走り回る子供。道端に集まって笑い合う女たち。中には危ない雰囲気の奴らもいるけど、殺気立った空気は少しもない。

こんなにも、違うものなのか。

戸惑いを必死に隠して素知らぬ顔で少年に着いて行く。
広場を通り過ぎて、住居らしいごちゃごちゃした建物の中を進んでいく。

「あ」

少年の歩調が緩くなる。
前を向けば、狭い路地の向こうから少年と同じ黒い制服が見えた。

二人。体格が良い。腰に下げているのは大振りの剣。
武器もない今相手をしたら、負けるかもしれないな。

そんなことを頭の中でつらつら思っていたら、そいつらは少年を見て、そして俺に視線を移してあからさまに顔をしかめた。
少年に「本気かよ」と吐き捨てる。

「クラシカさんが許したからってどうかしてんぞ」
「大丈夫大丈夫。この人あっちに忠誠心ないし。それに何かあったら俺が責任取るから」

え、そうなの?

思わず少年を見下ろせば、視線に気付いたらしい少年の顔が上がる。黒い瞳と目が合った。

にやり、って感じに笑われる。


「というわけなんで、頑張って馴染んでください」


……いや、馴染むとかそういう話?


呆気にとられて動けずにいたら、「頷け」と若干不機嫌そうに言われて反射で頷く。
そしたら満足そうな笑顔をもらった。

「ほら、良い子じゃん。ちゃんと言うこと聞く」
「……寝首かかれんなよ」

少年の明るい言葉に警護団の奴らは苦々しく返した。俺もどっちかっていうとあいつらの考えの方が理解出来るんだけど。


この少年の考えていることはさっぱりわからない。


歩いていくと同じように警護団の奴らに絡まれて、その度に少年は「大丈夫」と言い返す。何が大丈夫なのか。
絡んできた中でも赤毛の子供は一際うるさく吠えていた。これには少年も困った顔をして、その赤毛を撫でてまた吠えられていた。


「もー本当いい加減うるさいな。ほっといてくれりゃいいのに」

機嫌が悪くなったらしい。
ぶつくさ雑な言葉で呟く少年。ころころ雰囲気が変わるのがまた不思議だ。仏頂面で俺を見上げてハキハキ言う。

「気にしてるなら気にしないでください。何もしなければあいつらも何もしないと思います」

言葉遊びのようで意味を理解するのに時間がかかった。ちょっと笑いそうになった。首を振る。

「別に気にしてない」
「でしょうね」
「……」
「あ、そこです。まずは団服作りますよ」


なんだろう。すごく弄ばれてるような気がする。


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あきゅろす。
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