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本編
31






「ツンケンして構ってもらおうとしてんのバレバレなんだよ!ガキか!何才だよ!」
「はぁ!?弱ぇやつにんなこと言われる筋合いねぇ!勝手にこいつが構ってくんだよざまぁみやがれ!」
「兄貴は優しいからだよお前が特別なんて思うなよ!つーか俺にはいつでも優しいからな!」
「それこそお前だけじゃねえしこいつうぜぇくらい俺の世話焼くんだぞ!弟だからって図に乗んな!」
「弟だから図に乗んだろ馬鹿が!ちょっと兄貴と一緒にいたからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
「はあぁ!?」


うーん。こいつら俺がいるの覚えてんのかな。
これ照れるところだよな。


俺の存在をまるっと無視して始まった激しい応酬。でも内容は俺について。
白熱する二人は迫力満点だけど、言ってることは大変可愛らしい。

焦ったけど言い合いだけならいいや、と止めるのは早々に諦めた。
壁際に移動して、よくまぁそんな息が続くもんだ、と思いながら二人を眺める。


「たった二年で兄貴のことわかったふりしてんじゃねぇ!」
「時間なんて関係ねぇな!兄貴取られてそんなに悔しいかよガキ!」
「はぁ!?悔しいに決まってんだろ!この二年どんだけ、っ、心配したし寂しかったし辛かったんだよ馬鹿!ずりぃんだよ!」

あ、申し訳ないけどめっちゃ嬉しい。

「は!こいつはその二年でここに馴染みまくって俺らと楽しくやってたんだよ残念だったな!こいつはもうここの人間だ!アホみたいにお人好しで強ぇ俺らの隊長なんだよ!」

うん、こそばゆい。けなしつつ褒めてるよね。強ぇ俺らの隊長って。

弟二人を見守りながら一人照れる。どこで止めよう。若干もっと聞いてたい気持ちもあるけど。だってこの二人がここまでデレることなんて滅多にないし。


と、のんびり思っていたら、フィーが「こいつは帰んねぇぞ!」と叫んで呼吸が止まりかけた。

いやおい、そこは普通秘密にしてくれるだろ。


「ここにいるってさっき言ったばっかだ!連れ戻しに来たんなら無駄だったな!こいつはここが、」


あ、だめだ。


「フィー!!」


ぴた、と言い合いが止まる。

パッと振り向いたフィーが物凄い顔で俺を睨みつけてくる。思わず視線を逸らしたくなって、唇を噛む。

『さっきのは嘘か』と責められている気がする。いや、きっとそうなんだろう。

嘘じゃない。嘘じゃないけど。

黙る俺にフィーが口を開く。
責められるのを覚悟して、拳を握る。


でもフィーより先に「わかってんだよ!」と叫び声が響いた。


ハッとして視線をずらす。

一歩の強い視線が突き刺さる。
怒った顔をして、でも目はまた潤んでいた。抑えた低い声が静かに響く。

「……そんな、簡単に捨てられねぇんだろ。信じらんないけど、ここでちゃんと生活してて……そいつとか、他の奴らとか……簡単に別れられないんだろ」
「……」
「そんくらい、わかる。何年弟してきたと思ったんだ」

息が詰まる。

この短時間で、そこまで考えたなんて。

兄貴は優しいから、と呟いた一歩は悔しそうで、きっと全部納得していない。

納得してないけど、それを責めない。
……それにきっと、止めない。


一歩は。

一歩は思った以上に、俺のことをわかってくれている。


「……うん、ごめん」


ぽろ、と溢れた言葉に、一歩は眉間に皺を寄せたままふいっと顔を背けた。ああ、嫌われたらどうしよう。
「ざまぁみろ」とフィーが呟くから思わずその頭を叩く。

「ってぇな!」
「フィーが悪い……。ごめん、さっきのは嘘じゃない。でもこれから変わるかもしれない……それは言っとく。ごめん」
「……クソが」

こっちもこっちで全然納得してくれない。

葬式みたいな空気に沈黙がおりる。
本当、頭が割れそう。どうしたって今結論は出せないし、これからどうしたらいいんだ。


とりあえず二人の機嫌を取らないと、とグルグル考えてたら、静かな部屋にコンコンとノックの音が響いた。


「───アズマ?おい、開けるぞ」


本当この人、空気読む。さすがすぎる。


静かに開いたドアの向こうから、兄貴分の顔が見えて飛びつきそうになった。


「あ、やっぱいた。フィーお前サボってんじゃねえぞ」
「キエラ本当ありがとう……尊敬するわ……」
「は?」

部屋に入ってきたキエラが目を丸くする。
フィーがチッと舌打ちをした。

「なんの話だよ」
「いやまぁ、うん。あ、フィーは水運んでくれたんだよね。サボってないよ」
「あっそ。ていうかお前元気そうだな……クラシカさんは大丈夫ってことか」
「あー、うんまぁ、なんとか……俺こそサボってごめん」
「いいって。今日くらいゆっくりしろよ」

苦笑しながら頭をくしゃくしゃにされて、へらりと笑う。
あー、癒しがこんなところにあったか。灯台下暗し。



「……おい、教えといてやる。あいつあの兄貴ヅラしてる奴に一番懐いてるからな」
「……ぽいな」
「クソうぜぇぞ」
「見りゃわかる」



後ろでヒソヒソ聞こえてくるわけわからん会話は現実逃避して聞かなかったことにした。

わけわからんけど、ちょっと丸くなった雰囲気に安心する。


二人が仲良くなってくれるなら何でもいいや。





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あきゅろす。
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