SS
『殴』※暗 ※DV気味注意
焦点が定まらない。
視界がゆらゆらと揺れている。
鈍い痛みと共に、口内に生暖かい鉛の味が広がっていく。
何ヵ所か、イッたな…。
そんなことを考えていたら、またヒュっと、拳が降ってきた。
拳の向こう側に、哀しそうな色に瞳を燃やした、
愛しい愛しいエースの姿。
今日はどんな理由で殴られてるのかなんて、もう覚えていないけど。
俺が他の男に笑顔を向けた、とか。
そんなような事だろう。
多分。
エースが拳を振り上げてから、頬に届くまで、まるで世界の秒針がサボり始めたようで。
全てが、スローモーションになる。
空気の流れも、温度も、気持ちも。
そのスローモーションの世界が、堪らない。
噎せ返るような鉄の匂いに
淫靡な湿気を含んだ空気に
今にも泣き出しそうな狂気を孕んだ愛しい視線に
麻薬のように脳も身体も全てを犯されて。
エースの狂おしいほどの、愛に包まれる。
あぁ、しあわせ。
腫れた頬に落ちてくる、重い想い。
揺れる脳に、愛が響く。
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