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結婚した男
Marriage@



政略結婚。
まさかそんなのを自分がするとは思っていなかった南美(なみ)。
21歳になって結婚して、もうすぐ1週間。

「…起きてください」

ドアをノックする南美。
中には入れない。

「起きてる…」

そう言って眠そうに部屋から出てきたのは南美の結婚相手の長谷部渉(はせべわたる)。29歳。

ここはもともと渉のマンション。結婚祝いで南美の両親が家具や内装をチェンジ。

洗面所に向かった渉を見た南美は、朝食の準備。

南美は社長令嬢。渉はその会社の社員。
結婚してると言っても、親には内緒で寝室は別にしていた。

「お前と同じ部屋で寝る気はない…」

最初に渉に言われた。
それまで…南美は、この結婚が無理やりだなんて思わなかった。

南美は…ずっと渉が好きだった。





「お兄ちゃーん」

南美が8歳のころから、いつも週末になると家に遊びに来ていた渉と渉の父。
高校生になっても、渉は南美に優しかった。

「お兄ちゃん、お勉強教えて」

「いいよ。おいで」

南美は、優しいお兄ちゃんの渉が大好きで、大人になったら結婚したいと思ってた。
だから、20歳になったとき婚約の話を聞いて嬉しかった。
渉も了承したと聞いて嬉しかった。






「………。」

無言で朝食を食べる渉。
きっと渉は、社長の命令に逆らえなかっただけなのだ。
そう思うと、南美は切なくなるが、いつか好きになってほしくて、頑張っていいお嫁さんになろうとしていた。

「あ…さげなくていいよ。私、やっておくから」

「…わかった」

渉は昔のように優しく笑ってすらくれない。
南美はそれが少し悲しかったが、スーツを着る渉を手伝った。

「…今夜は夕飯いりますか?」

「あぁ…7時には戻る」

「はい」



南美は玄関までお見送り。

「いってらっしゃい。お兄ちゃん」

「………。」

渉は無言で出ていく。
南美は笑顔で手を振った。
そのまま、大学へ行く準備をする。







「おはよ〜新婚さん」

大学に行くと、南美と仲良しの篠原ルカが話しかける。

「指輪なんか見つめちゃって…もう旦那様が恋しい?」

「そ…そんなんじゃないよ…!」

焦ると余計にニヤニヤするルカ。

「でも、21歳で結婚なんてもったいな〜い。これから遊べるのに」

「私はしたくてしたからいいの」








ルカと遊んで家に帰ると、もう6時。慌てて夕飯を準備した。

「間に合うかな…」

だが、夕飯が作り終わったのは7時半。
でも、渉はまだ帰って来なくてホッとした南美。

「よかった…」





そのままテレビを見て渉を待ったが、9時を過ぎても帰って来なくて、南美は少し心配になる。



結局、帰ってきたのは10時を過ぎた頃。

「あ…お帰りなさい…」

南美が玄関に走り、カバンを持つ。

「遅かったですね…」

「急な仕事が入って…夕飯は外で済ませた」

「そう…」

リビングにいった渉は、ダイニングに夕飯がラップをされて置いてあるのを見て驚く。

「…食べてないのか?」

「気にしないで…勝手に待ってただけだから。あ…お風呂わかしてあります」

南美が笑顔で言うと、渉はお風呂へ。
南美は夕飯を少しだけ食べて、あとは冷蔵庫にしまった。





お風呂からあがった渉が寝室に入るのが見えた南美は、

「あ…おやすみなさい…お兄ちゃん」

声をかけたが、渉はそのまま部屋へ。

南美はゆっくりお風呂に入る。
あがると、残り湯を使って洗濯機(乾燥機付き)を回して寝た。



朝は早起きして…お弁当を作ってみることにした。
いらないって言われたら、自分で食べようと思った。

いつものように起こして、いつものように玄関まで見送る。

「あ…あの…!」

南美は、靴を履いて振り返った渉に思い切って言った。

「これ…お弁当…作ったの」

「!」

驚く渉を見て、南美はお弁当を出したことを後悔した。
だが、渉は受け取った。

「ありがとう…行ってくる」

「あ…い、いってらっしゃい!」

南美は、嬉しすぎて混乱した。
「ありがとう」も「行ってくる」も初めて言われた。
こうやって少しずつ夫婦に近づければいいと思った。






その日、お弁当が空になっているのを見た南美は、嬉しくてはしゃいだ。
明日も頑張ろうと思えた。

でも、夜になると寂しい。夫婦なのに、抱きしめられたことすらない。まともに手を握ったこともない。
渉の部屋の鍵は内鍵で、外からは開けれない。
南美と渉の寝室は隣で、それをつなぐドアもあるが、それも渉が開けてくれないと開かない。

南美は、いつもドアの前で祈っていた。
いつか…ドアが開きますように。








「…それってヤバくない?」

ルカに寝室が別だと打ち明けた。

「え?」

「だってさ〜、全然してないってコトでしょ?」

南美の顔が少し赤くなる。

「絶対、浮気してるって」

「!」

南美はそんなこと考えたこともなかった。

「あの人は…そんなこと…」

ルカはあきれたように言った。

「浮気された女は、大体そう思ってるの!男なんて…感情なしですぐヤッちゃう生き物なんだって」

「!」

ルカの言葉に、南美は一気に不安になった。

仕事で遅くなった日は、本当に仕事だったんだろうか?

自分には指一本触れない…他で満足してるから?
そんなに…魅力ないのかな。

南美は、一気に気分が暗くなって落ち込んだ。








「お帰りなさい…」

今日も帰りが遅かった渉。
南美は、いつものように元気には迎えられなかった。

「仕事が長引いた…メール見たか?」

「…うん。だから先に食べた。お風呂わかしてあります…」

南美がカバンをリビングに置くと、すぐ近くに渉がいた。

「どうした?」

「え…?」

今までにないくらいの至近距離に、南美はテレた。

「…具合でも悪いのか?」

「!」

渉の手が、南美のおでこを触る。
初めて触れられた南美は、恥ずかしくて渉から離れた。

「だ…大丈夫。平気だから…お兄ちゃん」

「…そうか」

そう言うと、渉はそのままお風呂へ。
南美はまだドキドキしていた。

今日もお弁当は完食。





「…お義父様とお義母様が?」

お風呂をあがった渉と話す南美。

「あぁ…明日、土曜日で休みだから、新居を見に来るらしい」

「はい」

「お昼過ぎには帰ると思う…」

結婚式以来の渉の両親。
南美は失敗はできないと張り切る。







10時くらいになり、インターホンが鳴り、玄関へお出迎えに走る南美。

「お待ちしてました。お義父様、お義母様」

「突然すまないね」

「いいえ。来ていただけて嬉しいです」

南美は2人のスリッパを用意した。

「これ買ってきたのよ。みんなで食べましょう」

「ありがとうございます」

南美が受け取り、リビングへ歩くと、リビングのドアを渉が開けた。

「いらっしゃい。早かったね」

「渉、どうだ?新婚は?」

父に聞かれた渉は、笑顔で答えた。

「もちろん…楽しいよ」

南美はこの家で、そんな笑顔を見たことがなくて、ちょっと悲しくなった。


「南美さん、手伝うわ」

「すみません、お義母様」

お茶を一緒に運ぶ。
みんなでリビングのソファーに夫婦向かい合わせに座る。

「さすが社長の娘さんだ。いい内装だ」

「そうね。渉、あなたの殺風景な部屋も見違えたものね〜」

すると、渉は南美の肩を抱いた。

「南美の両親には感謝してる。だが、これからは2人でやっていかないと…」

「!」

肩を抱かれたのも、名前を呼ばれてのも初めて。
南美は両親へのポーズだとわかっていてもドキドキした。



「あ!お義母様、お昼を作るの手伝っていただけますか?」

「?…えぇ」

しばらく話しているうちに、南美がひらめいたように言って、2人でキッチンへ。

「…何を作るの?」

渉の母が聞くと、南美は頭を下げて頼んだ。

「渉さんの好きなものを教えてください」

「!」

「やっぱりお義母様の味が一番好きだと思うんです。少しでも…渉さんの喜ぶ顔が見たいんです」

頭をあげると、渉の母は笑っていた。

「…いいわ。とりあえず冷蔵庫を見て考えましょうか」

「はい…っ」



昼食に皿うどんを食べながら、突然渉の母が言った。

「早く孫の顔が見たいわねぇ…」

「!」

驚いた南美は、うどんを吹き出しそうになる。
すると、渉は冷静に言った。

「まだ新婚だから…もう少し2人でいたいんだ…」

南美は渉の言葉にドキドキした。2人でいたい…なんて嬉しい。



渉の両親は、夕方前に帰った。
リビングを片付けると、渉が手伝ってくれた。

「母さんとずいぶん仲良くしてたな…」

「お義母様に料理を教えてもらってたの。お兄ちゃんが一番喜ぶ料理」

そう言うと、渉は黙り込んで部屋にこもってしまった。
南美は勝手にそんなことを聞いたのを怒っているのだと思い、少し落ち込んだ。


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あきゅろす。
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