強引な男
V
『………。』
「………。」
今までしゃべったことのない2人に会話なんてなかった。
黙ったまま…駅までの道を歩く。
それでも咲良はドキドキしていた。
「…井上さんって…」
『!』
少し後ろを歩いて見つめていたので、急に振り返られて目が合い、どぎまぎしてしまう咲良。
「…大学行くの?」
クスクス笑う準。
『…え?』
「頭いいし」
『で…でも、藤原くんに勝ったこと…ないよ』
「………。」
咲良が少しテレながら言うと、準が足を止めた。
急だったので、軽くぶつかる。
『あ…ごめ…』
すると、準の顔がアップになったと思ったら、見えなくなる。
『!』
唇に柔らかい感触。
初めてのキスだった。
『…っ…や!』
反射的に準を突き放す。準は少し驚いていた。
咲良の目からはポロポロ涙が落ちた。
「ご…ごめん」
準が謝るので、首を横に振るが、涙は止まらない。
咲良はずっと準が好きだった…嬉しいはずなのに、キスされたとき、頭をよぎったのは…秀也の顔。
そんな自分が信じられないでいた。
「…じゃあ…また…」
『うん…』
駅に着くと、路線が別なので別れた。
準は電車が来ていたので、そのまま乗った。
咲良はあと5分くらい待たなきゃない。
涙は止まったが、気分は落ち着かないままだった。
咲良はホームのベンチに座った。
「…咲良?」
『!』
咲良が下を向いて色々考えていると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。
顔をあげると驚いた顔をした秀也がいた。
「何…?どうした?」
『!』
秀也が驚いているのを見て、また泣いていることに気づいた。
『葛さ…』
「秀也〜!」
咲良が話そうとすると、晴美が走ってきて、秀也の腕にしがみつく。
「ねぇ、電車来たよ〜。晴美の家、行くんでしょ?」
『!』
秀也は咲良が気になってチラ見すると、咲良の表情はショックを受けているように見えた。
咲良は秀也の視線に気づき、涙を拭いて立ち上がる。
ちょうど電車が来た。
『あ…邪魔だよね。ごめん…』
「咲っ…」
ドアが開いたとたん、駆け込み乗車。
秀也の隣に、彼女がいる事実。そして、咲良に触れた手で晴美に触るのを考えただけで嫌だった。
秀也が見せてくれたドキッとするような切なげな顔。
強引な言葉。
秀也が遊び人なのは学校でも有名。
そんな人に…ドキドキしてる事実を咲良はついに認めた。
『なんで…よく…知らないのに…』
また泣きそうになり、下を向く。発車のベルとドアの閉まる音。
電車が走りだす。
「…咲良」
『!』
顔をあげると、目の前に秀也がいた。
『なん…で?』
咲良が驚いていると、秀也は少しテレていた。
「いや…泣いてた…から」
『!』
秀也も優しい男だということに、今気づいた。
モテるわけだし、遊べるわけだ。
咲良は、それでも遊びの女にはなりたくなかった。
『彼女…いいの?』
「彼女ってか…まぁ…」
『そっか……できれば誰でもいいんだもんね』
「!」
咲良がうつむくと、秀也が驚く。
降りる駅ではないが駅に着くと発車寸前に飛び降りた。
『…ばいばい』
「待っ…!?」
咲良は笑顔で手を振ったが、心は晴れないままだった。
『…失礼します』
保健室に来た咲良。
寝不足で頭が痛かった。
「井上。めずらしいわね」
保険医の佐藤。おばちゃん先生だ。
『すみません。頭が痛くて…少し休んでいいですか?』
今は昼休み。
「帰ってもいいよ?」
『いえ、休めば落ち着くと思うので…』
「じゃあ、あっちの空いてるベットに寝て。5時間目は私、いないから。ゆっくり寝てな」
『はい…』
ふとんに入ると、結構すぐに寝れた。
「佐藤せんせー」
保健室に秀也が具合悪そうに来た。
「めまいが…休んでいい?」
「…ダメ。あんたはいつも仮病。それにベットがいっぱいよ」
「えー…次、数学で俺に当たるんだよ」
「あきらめなさい。今日は優等生が具合悪いのよ」
「…ふーん」
窓から入る外からの暖かい風に目を覚ました咲良。
5時間目の途中のようだ。校庭で体育をしている声も聞こえた。
『………。』
頭はだいぶスッキリした。
すると、シャッ…と仕切ってあるカーテンが開く。
『先生?』
咲良が起き上がると、
「…昨日せっかく追いかけたのに…」
『!』
カーテンを開けて、また閉めたのは秀也だった。
「まさか俺が獲物逃(のが)すなんて…」
『や…嫌…』
咲良はベットに押し倒されて、秀也が上に乗る。
『やめて…』
「………。」
隣のベットから少し音がしたが、秀也しか気づかなかった。咲良の上着の中に手を入れる。
『あ…っ、やめ…んっ』
言葉とは裏腹にぴくん…と反応する体。
秀也がクスクス笑う。
「ここなら…時間はたっぷりあるけど…」
『やぁ…っ』
「いつもみたいに言ったら?」
『…んっ』
ブラの中に手をすべらせて、ゆっくり揉まれた。
秀也が咲良の耳元でささやく。
「助けて…藤原くんって…さ」
『!』
秀也の手がスカートの中へ。パンツの上から優しくなでる。
『ひ…ゃ…ぁあん』
感じてしまい、甘い声で鳴き始めた咲良。
「それとも…嫌じゃない?感じてるみたいだね」
『違っ…あんっ』
腰をくねらせて逃げようとするが、それが逆に秀也の手の動きをやらしくしていた。
『…嫌…』
咲良は感じてしまうのが嫌だった。
どんなに惹(ひ)かれていても…秀也は誰でもいい。彼女だっている…そう思うと苦しかった。
『葛西く…お願い…やめて…』
「!」
咲良が震えながら涙目で言うと、秀也がひるんだ。
そのスキに咲良は秀也を突き放して逃げた。
保健室に残された秀也は、ベットに残る咲良の残り香にすがるようにシーツや枕をつかんだ。
「…咲良…」
そして、隣のベットで寝ていた男…準も起きていた。
カーテンの向こうから聞こえた咲良と秀也の声。
しかも、咲良の声は聞いたことがないほど別人のようなあえぎ声。
準は1人ドキドキしていた。
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