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短編・中編

 何か用事を…そうだ、門屋が起こす問題についてとか相談する感じでいこう。
開口一番なんて言おうかなんて考えながら扉を開けば――珍しく、風紀室には誰もいなかった。

「誰もいない?…いや、そんなハズないな。」

 授業中以外は、常時誰かが待機しているのがこの場所だ。
 しかし人が少ないのは好都合かも知れない。あの鬼のような男が留守なら更に良いけれど…開けた仮眠室のベッドで、大型の獣みたいに眠る風紀委員長を発見した。

 いつもは側にいるだけで圧迫感とプレッシャーと食われそうな恐怖しか与えてこない男が無防備に横になる姿に、思わず頬が緩む。
 起こさないよう息を殺しながら少しずつ近付けば、側の棚に見慣れたビニール袋。

「あ!これ、購買のコロッケサンドじゃん!…おおっと…。」

 つい大声を上げてしまい、慌てて口を押さえて村上を確認したら…普通に寝息を立てていた。意外と寝穢い奴だな。

「いいなぁ…このパン、滅多に食えないんだよなぁ。」

 基本金持ちの多いこの学校で、生徒会長ともあろう者がそんな貧乏臭い物を人前で買うな。そう言って震えがくるほどの笑顔を向けてきた錦野先輩を、俺は忘れない。
 軽いトラウマとなったその一件から、俺は購買でコロッケサンドを買うことが出来なくなってしまったのだ。唯一のチャンスは、仕事が忙しい時に顧問が差し入れてくれるパンに紛れている時のみ。

 その愛しいパンが、今俺の目の前で……3つも!あるんですけど!!

「ぐぐぐ……起きたら、分けてくれないかな…?」

 スヤスヤ眠る村上に日頃の恨みを晴らそうという気持ちは、コロッケサンドによって吹っ飛んだ。

 ここは大人しく、目が覚めるまで待とうと決める。
 村上が起きたら…なんて言って頼もうか。
 ベッドを背凭れにして床に座り込んだ俺は、コロッケサンドに想いを馳せているうちに、いつのまにか眠ってしまった。



*******

 夢うつつのなか、俺はコロッケサンドと対峙していた。
『食べたいのか?』
 そう聞いてくるコロッケサンドに、俺はこれでもかと頷く。
 すると、低音ボイスコロッケサンドが、半開きの口元へ寄ってきた。
『食べたいのか?』
 繰り返された質問に、それでも頷いて思い切り口を開く。

「……?」

 待っても待っても、口の中に馴染みのある旨味が広がらない。
『――そんなにスキか?』
 当然だ。
『じゃあ、好きって…言ってみろ』

「…すき。」
『……どこに入れて欲しい?』
「…口。」
『全部まとめて台詞にしたら?』
「……好きだから、ここに入れて。」

 コロッケサンド!

 俺にみなまで言わせたら満足したのか、コロッケサンドは行儀よく俺に食される為に口に飛び込んできた。可愛い奴め!


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あきゅろす。
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