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いただき物小説など
不知火さまより「幼馴染×会長」
辛くは、なかった。


仲の良かったはずの役員達が一人、また一人と俺を避けるようになっていったときも。

誰もいない生徒会室に朝から晩まで、仕事を片すために一人篭るようになったときも。

仕事に奔走する中でいつしか、身に覚えのない悪評が飛び交っているのを知ったときも。

……結果的に、歴代最低の生徒会長として役職を剥奪されてしまったときも。


苦しくなかったと言えば嘘になる。
けれど辛くはなかったんだ。本当に。

だって俺にはたった一人。何があっても俺を信じてくれる存在があったから。
幼いころからずっと一緒で。ずっと俺の傍にいて。ずっと、俺を支えてくれる存在があったから。

だから俺は耐えられた。
たとえ全学園生に疎まれ、嫌われ、憎まれても。それがあいつでないのなら、俺にとってなんの弊害にもならなかった。なんら取るに足らない、瑣末事でしかなかったんだ。

それくらい、俺はあいつに全幅の信頼を寄せていたから。……あいつに対する恋慕も、一緒に。



―――けれど、あの日。

教室移動の最中(さなか)、引きずり込まれた空教室で屈辱を強いられたあの日。
知られたくないがためにあいつに嘘を吐いたあのとき、あの瞬間を最後に


あいつの顔からは、―――――笑顔が消えた。




* * * * *




外側から内臓を抉られる絶痛。
込みあげる嘔吐感と焼けつく喉。
意思とは関係なく溢れでる、涙と唾液。


「きたないな。人の部屋を汚すなよ」
「す、まな…ッ…ぃ゛っ、あ゛!」


床に転がり身を丸め、息も絶え絶えに悶絶する俺を何の感情も篭らない無機質な声が冷たく詰る。
ろくに機能しない喉を酷使し謝罪の言葉をひり出すものの、それすらこいつは気に入らないんだろう。
小さな舌打ちとともに今度は頭部に激痛が走り、ミシミシと骨の軋む音に合わせて視界が真っ赤に明滅した。


「お前はどこもかしこも汚くて……ほんと、嫌になる」


俺を蔑む声も、どこか遠い。激しい耳鳴りに遮られて、言葉の端々が頭の中で反響するだけだ。

けれどそれが、今の俺にとってはなによりの救いで。

痛めつけられ、すでに悲鳴をあげている体とは裏腹に。頭の片隅では今以上のものを―――心までも壊れるほどの苦痛が欲しいと訴える。

でなければきっと、俺は耐えられなくなるだろうから。
出会った頃から俺を支えてくれた甘い声で、罵倒され続けることに。


―――あのときでさえ頑なに拒絶するだけだった俺の心。
しかしこいつという存在の前では……それはいとも容易く、脆く崩れさってしまう。


「ッ…は、…くっ……っず、…ゃ」
「…………」
「ぉ、れを…っ、…は…ッこ、わ…し……ッい゛、ぁ゛、あ゛!!」
「……しゃべるな。耳障り」


せめてもとした懇願も、硬いフローリングの床と嗄れた悲鳴に呑み込まれた。

―――だが、それでいい。
長く圧迫され続けた脳は鈍痛のような頭痛を引き起こし、ようやっと俺の意識を闇へと引きずりこんでいく。

そうすればもう……こいつの声は俺には届かない。

あのときまでは、何よりも恐れていたことのはずなのに。
こいつの声が聞こえなくなるのを、こいつが離れていってしまうのを恐れて、だからこそ自分を偽った。

だというのに、俺は今、何よりも恐怖したそれを望んでいる。
惨めたらしくこいつの傍を渇望しながら、それと同じくらいにこいつの言葉を恐れて。俺を傷付ける言葉なんて聞きたくないと、泣いて、叫んで、そのくせ縋りついている。


「……、に…って……だよ…」


だからそんな俺など……早く壊れてしまえばいいのだ。

泥沼のような暗闇にずぶずぶと侵食されながら薄っすらと開いた視界は、涙で滲むせいか姿さえまともに映してはくれなかった。











――――……夢現のなか、朧げな愛しい人がふわりと笑う。


「ゆっくりゆっくり、壊してあげる。大丈夫、壊れてもずっと傍にいるから。愛してるよ、―――」


囁かれる睦言のせいか、それとも俺を見下ろす柔らかな瞳のせいか。

冷えた頬を温かい雫が一つ、ゆっくりと伝い落ちていった。



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あきゅろす。
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