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お題サイト等提出作品

「信じられねー!マジで信じられねー!この短時間でもう襲われてるっとか!」
「ぅ、があっ」

 目の前で、俺に絡んでいた3人の生徒があっという間に床に崩れ落ちていた。
 いきなりのドロップキックに吹っ飛んだ金髪は、そのまま頭を踏まれて蛙みたいな声を上げて動かなくなり、振り向き様に繰り出された真鍋の拳を頬で受け止めた奴はなんか白い歯が飛んじゃっていた気がする。そのまま動けないもう一人の腹に膝蹴りが入って終了した。最後の奴が吐いた胃液が床に飛んで汚い。
 一瞬の出来事だった。

「あ――…クソッ!」

 真っ直ぐな黒髪を片手でぐしゃぐしゃにしながら、未だ微動だに出来ない俺を見る目は苛立っている。

 一歩近づいた真鍋に、え、俺も殴られるのか?とつい後ろに下がって距離をとる。しかし真後ろは壁なので、これ以上は下がれない。
 真鍋はそのまま俺を横切って、落ちていた紙パックを拾った。

「はい。ちょっとヘコんじゃいましたけど」
「あ、ああ……」

 手渡された苺牛乳は、真ん中が歪になっていた。
 飲めない事は無いなと受け取れば、神妙な顔で真鍋は俺を見た。

「あの、ですねー…実は俺、暴力沙汰で美森追い出されちゃってて、ここでは問題を起こさないって約束で転入してるんですよ。これって……問題行動に入りますかね?」

 これ、と視線を向けたのは、汚い格好で倒れている生徒達だ。

 なるほど。ヤンチャだった昔と180度変わったと思っていたけれど、実はあの頃のまま成長していたのか。

「いや、正当防衛ってことで問題無いだろう。俺をリンチしていたら速攻で退学にしてやるつもりだったしな。こいつらもこの程度で済んでラッキーだったんじゃないか」
「リンチ?」
「風紀に報告したら厄介なことになるかも知れないし、誰もいないからこの一件は無かった事にしよう」

 コイツらも、動けるようになったら勝手にどこかへ行くだろう。俺は何も関係しなかったし、下僕の真鍋も然りだ。

 そうと決まれば長居は無用。
 やや速足で生徒会室へ向かう俺の後ろで、なぜか真鍋が「え?え?」と変な声をだしてついて来た。


******

 生徒会室に入るなり、真鍋が座っていた大海に大声で話しかけた。

「ちょっと!この人の貞操危機管理能力はどうなってるんですか!!」
「無いよ」
「やっぱり!」
「危機管理能力はあるぞ」
「ないでしょ!」「無いなぁ」

 憮然とする俺に対して、真鍋が溜息をついた。

「―――あんた、いっつもそう。今の俺は複数相手でも助ける自信あるけど、人からの好意はわかるけど周りからどんな目で見られてるのかとか、時々気づいてないだろ。さっきの奴らだってリンチ目的じゃなくてレイプ目的だってわかってた?」
「この俺をレイプだと!?」
「しかも尻狙われてるから」
「尻!!」

 ふらりと机に倒れ込む俺から少し離れたソファで、なぜか最近仲の良いふたりが会話している。


 やっぱり昔のアレは避難場所だったんだ、とか。あの人アレで興味無い人間には全く関心ないから脈ありだとか。大海が真鍋に向かってヒソヒソと話している。だが、俺の地獄耳は全てを聞いていた。
 ん?脈ありとはもしかして俺の事か!?

 ……真鍋は、俺の事が好きだったのか!?

 そう考えると、急に頭がふわふわと軽くなってから熱くなってきた。
 下僕の癖にこの俺に好意を寄せるとは。しかしさっきは俺の危機に、ヒーローよろしく駆けつけてきた。
 昔は半泣きで木にしがみつく俺を満足気に見上げながら、迎えが来たらどんなに呼び止めても置いて帰った真鍋。悔しくて悲しくて、どうしてこんなに嫌われているんだろうかと涙が止まらなかった。


「………そうか。あの真鍋が、この俺を好きなのか」


 ちょっとだけニヤケそうになったけれど、これは気のせいだ。


おわり

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あきゅろす。
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