檻
1
自由に出来るのは3年間。
それさえも、学園と名のついた広い監獄のような空間での話だ。
生まれ落ちた時から決められた四ノ宮の後継者としての道は、母が鬼籍に入り新しい義母に血の繋がった弟が出来たとしても、変わる事は無い。
自由とはいえ家の名はあまりにも大き過ぎて、名を伏せて過ごす学園内でも、決して誰にも心を許すなと念押しされて放り込まれる始末だった。
「俺は藪。よろしく」
入学式当日。
登校した者から自由に着席して良いと説明され、ホールの隅に座った瞬間、待っていたかのように横に座った男がいた。
かけてきた声には、聞き憶えがあった。横を向けば、案の定見慣れたシルバーの眼鏡の奥で目を細め俺を見ている。
「藪……?」
「そう、藪。藪一敏です。どうぞよろしく。あー…」
「斎賀だ」
「そう、よろしく。斎賀君」
親しげな挨拶に、返答する気も失せた。
この学園では藪と名乗る事になった生徒は、俺の補佐として幼い頃から側にいる男だった。
四ノ宮の嫡子には、必ずこうやって同じ歳の子供がつく。今は例外的に弟にも他の家の者がついているが、義母の強い要望だったと聞く。
「―――よく入学できたな。確かここは連なった下の者を入学させる制度は無かっただろう」
「蛇の道は…ってやつですよ。補佐は表向き発表されてないですしね。一般生徒として金さえ積めばあっさりOKって感じ?」
「……なるほど」
「学友として今日からどうぞよろしく。斎賀君」
「斎賀でいい」
「じゃあ俺も藪で」
慣れるかな、とうそぶく男に気負いはみえない。
この3年間を唯一の自由と考える自分と、生まれた時から常に使命を帯びている男――藪とでは、これからの生活も全く違うものなんだろう。
「……手を抜くなとは言わないが、自分の学生としての時間も作れよ」
「―――その辺りは、俺昔から得意ですよ」
ニヤリと口角を上げる藪の目が、さっきよりも笑っている気がした。
藪とは、残念?ながら別のクラスに分かれた。
ホッとしたような残念なような気持ちになりながら、これから1年を過ごす教室を見渡す。当然のことながら顔見知りの生徒同士など皆無で、全員が番号を振られた自分の席に大人しく座っている。
自惚れでは無く自分が相応の容姿をもっている事を多少は自覚しているので、男子校といえども窺うような視線も気にはならない。
しかし一人だけ自分と同じように、好奇の目に晒されている生徒がいた。
しかも隣に。
髪の色さえ、今しかないと馬鹿みたいに金色に染めてた自分と違い、彼の髪は墨汁を垂らしたように真っ黒だった。腕を組み、閉じている目が開いたら、髪と同じように深く暗い夜のようなのだろうか。
周囲の視線は無視していた癖に、俺が観察しだした瞬間に目を開き……想像通りの漆黒の瞳でこちらを見た男―――松本祐耶との出会いだった。
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