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 俺の起床時間は6時。その時間にはもう隣には誰もいなくて、冷え切ったシーツに手を当てながら息をつく。
 アイツは一体……何時に出て行ったんだ。

 昨日まで育んできたのは確かに友情だった、筈だった。たった一日で別の何かに変化した関係は、確かめる時間を与えられないまま過ぎる。

 急いで確認しなくても学校に行けば普通に会える。あんな風に抱き合った後でクラスメイトとして教室で顔を合わせたら、開口一番俺達は何を話すのだろうか。
 そんな事を思いながら、俺はきっと柄にもなく浮かれていたんだろう。新しい関係に何かを見出そうとして、らしくもなく、馬鹿みたいに。


 松本はその日、教室に来なかった。



 これまでも1、2度は生徒会の雑務で授業を抜けることはあったが、丸一日休むのは初めてだ。ごく稀にサボって居なくなる男でもあったから、誰もがそこまで気には留めなかった。
 もしかして、昨日の行為が身体に響いたんだろうか…
 この学園に来て男を抱くようになった松本だが、抱かれるのは初めてに近かった。いや、きっと俺との行為が初めてだった。
 挿入するようには出来ていない器官でセックスしたのだ、何かしらの変調をきたしていても可笑しくはないだろう。そんな簡単な事にも思い至らなかった自分が情けない。


 急いで部屋へ見舞おうとしてから、必要な物を買うために慌てて売店へ寄る。
 学園内の物品は全て無料配布のために店員がいない売店は、いつ来ても閑散として見えた。しかし熱冷ましや後ろに使う塗り薬を買う身としては、今日だけはこの人気のなさが有難い。補充の為に必要なバーコード処理を自分で行い、備え付けの袋に入れれば用は済んだ。

 食べる物を忘れたけれど、それは見舞った後でもう一度行けばいいと逸る気持ちが俺を急かした。
 何度も行き来した互いの部屋。


「―――っ、と……斎賀、くん?」
「……なぜアンタが此処に」

 インターホンを鳴らす前に開いた扉から出てきたのは、何度か見かけたことのある上級生だった。
 まだ午後の授業を残した時間帯に、誰もいないと思っていた油断からつい荒い言葉が出てしまったが、2年先輩である男は気にした風もなく薄らと笑った。

「君こそどうして此処へ?ああ……松本様が授業に出られなかったからか。心配ないよ、体調が悪いとかではない。友人として心配して来てくれたんだろう?」

 ありがとう、とさも自分が礼を言って当然という顔をする松本の親衛隊長。不快感を覚えながらも表情には出さず「貴方に礼を言われる筋合いはありません」と答えれば、彼は「それもそうだね」と笑った。
 肩を竦める仕草にすら、今までには無かった余裕を感じる。

 何かがおかしい。

 俺と入れ違いに出て行く男から漏れる湿った空気に、首筋がちりちりと毛羽立った。見慣れたはずの松本の部屋なのに、ここはこんなに嫌な空気が籠る空間だっただろうかと低く唸る。
 ほんの少し浮かれていた気持ちは、消えてしまった。

 売店を出た時とは正反対の逸る気持ちで靴を脱ぎ、人気のないリビングを抜ける。
 音がしないなら松本がいる場所はここしかないだろうと……部屋の扉をゆっくりと開く。このノブは、こんなにも冷たく重かっただろうか。



「―――…せ、んぱい?何…忘れ物とかならさっさと持って、とっとと帰って下さいよ。絶対二発目とかしませんからね、眠いし」


 友人だった男がベッドで眠る姿なんて、何度も目にしてきた。

 しなやかな肢体をシーツに沈めて、掛け布団を抱きしめながら零れる色香を溢れさせる姿は――――昨日、嫌というほどこの目で見た。


 そう、情事の後の、しどけない姿。
 同じ男なのに、綺麗についた筋肉の滑らかなラインを抑えつけて何度でも征服したい衝動に駆られる、悪魔のような誘惑。



 自分だけが
 これから先は、自分だけが……俺だけが、見るのだと信じていた姿で横たわる松本が、気だるげにこちらを見上げた。


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あきゅろす。
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