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 両手で頬を挟まれ、舌を入れるディープなキスを、困惑したままで受け入れた。

「ん、ぅ……ふ、っ」

 ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音をさせて何度も角度を変える友人が女なら、誘われていると感じただろう。
 ―――いや、ここなら男でもその意味合いを含むのか。
 扇情的ともとれる松本の声が漏れる中、ぼんやりと考えた。



 何も知らないまま性の快楽に溺れないようにと、四ノ宮の男子は12になると閨の教育として、女性があてがわれる。
 好きな女との経験は皆無で、そもそも異性を本気で好きになった事が無い俺が言うのもなんだが……


「……お前、キス下手だな」
「ん、なっ!?」
「あ―――悪い」

 適度に遊んでいるはずの松本の舌が本気でぎこちなくて、思わずでた本音にシマッタと謝罪したが、遅かった。
 熱に浮かされたように必死だった松本の顔が、違う意味でみるまに真っ赤に変わる。プライドを傷つけるつもりはなかったのに、俺も動揺していたのだ。
 いや、今でもしている。
 だからベッドに押し倒されて腹の上に乗られても、なにひとつ抵抗出来ずに、親友を見上げるだけだった。

「松本……?」
「いいから黙れ」

 再開される口づけに、やはり戸惑う。
 正反対に手慣れた仕草で脱がされていく服。そして一番困ったのは、俺自身がなんの嫌悪感も覚えない事だ。

 必死で口内を探る松本の舌にちょっかいをかけてみれば、驚いたように中から舌が消えた。

「なっ……」
「なんだ、終わりか?もう起き上っていいのか?」
「そっ、んな訳ねーだろ」

 遊びで俺を押し倒している訳では、無いと思う。それは扉を開けた時にみた言いようのない視線が物語っていた。ならこれには、一体どんな意味があるんだろうか。

 いつもは冗談半分で暴言を吐いたり、互いに手荒い態度をとる時だってある。でも今は、それをしてはいけないのではないかと、そんな気がした。


 俺を見下ろす松本の、ほんのり赤いのに紙のように青白い美貌を何も言わずに見返した。くしゃりと、叱られた子供のように頼りない笑い顔で、「ごめんな」と唇が動く。

「………一回だけでいいんだ」
「ちょっと、試したいだけなんだ――――ああ、お前が好きだとか気持ち悪ぃことは言わないし、無いから」

 こいつは、何を言ってるんだ?


 俺達は今日まで、結構上手くやってきたと、そう信じていた。
 けれど目の前で馬乗りになる親友は、下準備は部屋でしてきたからと笑いながらシャツを脱ぎだす。ベッドの隅に放り投げていた袋から、これ見よがしに出して見せたのは真新しいゴムとローションだ。

「松……おいっ」
「大丈夫……こっちは自信…ある」

 腹から腰を上げた松本は、あろうことか俺のズボンのジッパーを下ろして股間を弄りだした。

 ここまでされても、やはり怒りも嫌悪も湧かない自分に、さらに混乱する。


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