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 この学園では2、3年生の決める人気投票と前期テストの上位者は、生徒会もしくは風紀に入る決まりがある。

 夏が過ぎ、松本は生徒会長に乞われて生徒会に入った。
 ならばと俺は風紀入りを決めた。ねっとりとした視線を松本に向ける会長が気に入らないという事もあるが、お飾りであっても歪みを正す立場にいたいと考えたからだ。


 松本がこの学園の悪習に染まってからも、俺達は友人関係を続けていた。
 あの一件以来、噂を聞きつけた生徒からの誘いが頻繁になったようで、「代用品としては申し分ない」と最低な台詞を吐きながら彼等を受け入れる姿を何度か目にした。互いに了承済みなら仕方が無い、そう思えるようになった俺も大概この学園の空気に染まってきているのだろうか。
 藪も当然のように風紀入りし、ぬるま湯のような生活に浸っていくのだろうかとボンヤリ考えるようになっていた。
 そんな、ある日。


「………斎賀」

 崩れ落ちそうな弱さをみせた『親友』が、俺に縋りついた。




 上級生だけでなく学園生活に馴染みだした1年生にも騒がれだし、生徒会に入った事で親衛隊も立ち上げられた松本には、何の問題も悩みも存在しないと思っていた。
 皮肉ではないけれど、実家が倒産した後なんらかの手段で学園に入学した生徒が、全ての頂点に立てる階段に足をかけたのだ。順風満帆とまでは言わなくとも、快適な毎日なのだろうと思っていたのに。

「斎賀……」
「―――松、本?どうした」

 扉を開けた俺が目にしたのは、聞いたことも無い弱々しいかすれ声と一緒に、ギュッと細まった松本の黒い瞳だった。
 自分と大差ない身体が密着して、抱きつかれたのだと理解した俺の脳が感じたのはマズイという感覚で。咄嗟に抱き込んで扉を閉めた。
 そうだ、コイツは生徒会役員に就任した親衛隊持ちで、俺も風紀に名を連ねている。扉を開けたままで抱き合えば、どんな誤解を受けるか。

 いや、違う。
 まわした腕の中で震える男の姿を、周りに見せる訳にはいかない。そう感じたのだ。

「……どうした」

 もう一度、落ち着かせるつもりで低く囁いた。

「―――悪い」

 小さく震えてから身を固くした松本が、俺から離れるように両手を突きだして呟く。床を眺めていた視線が上向いた時には、いつもの親友がいた。

 口元を僅かに歪めた表情は俺をからかう時によくするそれで、あまりにも何時もと変わらない仕草になぜか不安が増す。
 一体どうした―――そう、もう一度同じ問いかけをする前に、腕を掴まれて部屋の奥へと引っ張られた。

「松……?」

 俺を無視するようにぐいぐい連れられ、自室に入る。ここは一人部屋なので態々部屋の中まで入る必要は無いだろうに、俺を放り込んだ松本は扉を閉めた。
 手に持っていたらしい紙袋をベッドに放り投げるのを目で追っていたら、胸元を引き寄せられた。


 ぐい、と寄せられたのは上半身だけではなく……乾いた唇が、俺の唇と重なる。


「………悪い」

 2度目の謝罪は、挑むような眼差しと同時だった。


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あきゅろす。
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