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 開いた扉の前に立っていた男の姿を確認して、祐耶は今日の夜伽番がこの男だったのだと思い出し…苦い息を吐いた。



 自分で夜に来いと言ったくせに、すっかり忘れていたのだ。
 正直――今日は、抱かれるよりも抱く方がマシだった。けれど祐耶には、あるように見えて拒否権など存在しない。

「松本様…」
「――入れ」

 すでに相当の熱を孕んだ視線を避けるように、開いた扉から手を放して背を向ける。
 昼間に会ったばかりの親衛隊長が無言でついて来ることなどは、確認する必要もなかった。


 いつもの手順で寝室まで足を運んだ瞬間、後ろから覆い被さるように抱き締められる。

「お前は、ベッドまで『待て』も出来ない駄犬か」
「……申し訳、ありません」
「がっつきながら謝るな」

 首筋に唇が伝う感触に、肌が泡立つ。
 けれど今日は、そのままなし崩しにセックスする訳にはいかなかった。どちらも仕事にはかわりないが、優先順位が違う。

 祐耶は纏いつく尾崎の唇を額を押しのける事で離し、身体を反転させて拘束を解いた。
 僅かに目を見開く尾崎に対して、蠱惑的な笑みを浮かべてみせる。

「今すぐ俺の中に入れたいなら…大人しく、其処のベッドへ腰をかけろ」


 太い喉仏がゴクリと音を立てて上下し、尾崎が人形のようにベッドへ腰を下ろす。視線だけは祐耶から離れないまま、指先一つ動かない様は滑稽だ。
いや――彼の中では既に自分はあられもない姿を曝しているのだろうと思うと、滑稽なのはそんな自分だと、可笑しくなる。



 しかし、本題は此処からだ。

「今日、会計と賭けをした」
「大島様と?」

 尾崎の脳裏には今、蓮の柔らかだけれど軽薄な容姿が浮かんでいる事だろう。

「そうだ。俺はこれから…1−Cの瀬川孝之を親衛隊に引き入れる」
「瀬川……」

 暫く思案した後、瀬川が誰なのかを思い出したのだろう。尾崎はハッとしたように顔を上げた。
 その驚いた表情を、意味ありげに見下ろしてやる。

「しかし――その生徒は確か、風紀委員長の…」
「だから、に決まってるだろう?」
「松本様……」


 今の祐耶は、彼の中の奔放で不遜な生徒会長に相応しい笑みを、見せられているだろうか?

「なあ、尾崎……あの、風紀委員長の恋人が、俺の隊へ入るなんてコトになったら――面白いと思わないか?俺は、成功する方に賭けた」



 魅入られたようにただ見上げる男の耳元へ、祐耶はそっと唇を寄せて、囁いた。
 上手く頷けたなら…ご褒美をやるぞ、と、硬い太股の上に跨る。



 さあ、娼婦の時間の始まりだ。

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