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「吹聴するつもりはないが、口止め料は貰おうかな」

 安心して弛緩していた瀬川の肩が、その瞬間面白い程に跳ね上がった。
 丸い瞳が更に広がり、驚いたように祐耶を見上げる。

「――何をそんなに驚く事がある?他人の弱点をハイそうですかと見逃すほど、俺はお人好しでも無いぞ」
「え…でも、さっきは…」
「面白おかしく触れまわるつもりはないし、これ幸いに弱点をついて相手を蹴落とすなんて事は、しないと言ったんだ」

 暗に、斎賀を攻撃するつもりは無いのだと仄めかせば、瀬川の表情にほんの少しだけ安心した色が混ざる。


「そうだな、週に1、2度…俺の仕事を手伝ってくれればいい」
「生徒会の…ですか?」
「なんだ?俺だって仕事ぐらいするぞ」

 心外だな、と露悪的に微笑して見せれば、やはり再び瀬川は慌てだした。遊んでいるつもりはなかったが、わかりやすい性格は、話していて愉快ではある。


 季節の行事が殆ど無い学園で、生徒会の仕事は目立つようなモノが無い。

 式ごとに壇上で挨拶することが一番大切なお飾り、そう影口を叩く人間が存在する事も知っていた。いや、アイドルや崇拝対象として、生徒達の役には立っているだろう。  
それこそ、『餌』と対極の位置にあるはずの、ある意味生徒達の頂点である『生徒会』が、同様の価値として存在する皮肉。



 携帯のアドレスを教えるよう言えば、逡巡した後、のろのろと携帯を此方に向けた。

 こんなに人の言う事を真に受けて…コイツは大丈夫なのか。
 人ごとながら、斎賀が深く関わっている理由の一端を知る。

「――じゃあ、呼びだしたら放課後すぐに来いよ」
「え…あの…」

 断りを入れられる前に、またな、と踵を返した。








「――可哀想に、モンシロチョウはそうとは見えない蜘蛛の糸に、絡め捕られちゃったのかな?」

 詳細を聞いた蓮が、何時ものように祐耶の自室で寛ぎながら笑った。
 その顔が…こころなし嬉しそうなのは、気のせいではないだろう。祐耶の報告の、何がそんなに彼を喜ばせたのか。


「でも、あの二人が付き合ってた訳じゃないってのは意外だったなぁ。堅物がそんなフェイク使うとか…」
「…機嫌が良いのはソレが原因か」
「機嫌、良いように見える?」
「ああ」
「なら、良いのかな」

 そう言って目を細めた姿が『兄』だったので…祐耶は彼が言わんとしている事に、見当がついた。


「――アイツの恋人が本物でも偽物でも、取り上げる事には変わりがないんだぞ?」

 学園で特別な人間を作るなと忠告するくせに、矛盾した思考を見せる蓮に、祐耶は溜息をついて確認した。


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あきゅろす。
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