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「……っっっ!!!?」

 耳を押さえ、真っ赤になりながらバッと俺との距離をとる瀬川に、祐耶は意識して妖しい笑みを見せた。瞬間、彼の顔がこれ以上ない程に赤く色を変えた事に満足する。

「たかが耳で、どこまで反応してるんだ?」
「い…っ、ゃ、でも…っ」
「どうせ斎賀ともっと凄い事してるのに、どんだけ操たててるんだよ」
「い、委員長とはそんなこと…っ」
「………してないのか?」

 瀬川が、しまったと言いたげな表情を浮かべた。

 直後に目の前の下級生は、しどろもどろになりながらも「いや、僕らは」「まだ、そんな…」「あの、」などと捲し立てていたが、祐耶の耳には入らない。
 祐耶の中で、様々な可能性が巡るましい勢いで浮かんでは消え、最も正解に近いであろう答えが弾きだされた。

 まさか―――いや、あの男ならソレさえ有り得ると思わせる。




「お前達………偽装、か」
「ヒ…ッ…」

 祐耶の問いに、瀬川の細い肩が跳ね上がった。けれどそれは、思わず睨みつけるようになってしまった鋭い視線のせいばかりではないだろう。

「なるほど、な」
「会長……」

 はっきりしてみれば、これほど納得できる話もない。
 正義の固まりのようなあの男の事だ…親衛隊が出来るほど整い過ぎるでもなく、食指が動かない程に平凡すぎる事もない下級生。この学園の中で最も犠牲になり易い弱者をみつけてしまった風紀委員長様は、警護をつけるまで危険とはみなされない憐れな少年に、自分のひとつしかない手を差し出す事を、躊躇いはしなかっただろう。
 いや、もしかすれば、多少の好意はあったのかも知れない。

 だが今はまだ、護る者と護られる者。
 これが吉と出るか、凶と出るか。

 祐耶にとっては…ひとまずは吉、だった。

「慌てるな。別に吹聴する気は無い」
「……本当ですか?」
「俺を誰だと思っている?そんなチンケな男と思われていたなら心外だな」
「い、いえ!?そんなつもりじゃ!…でも、良かった」

 折角の委員長のご厚意なんです、と人のよさそうな笑みを浮かべるお人好しに、祐耶は内心でほくそ笑む。可哀想に…と。


 本物の恋人同士でないと判ったからといって、計画に変更が生じる筈もないのだ。
 そんな事は、何度も同じような仕事をこなしてきた祐耶にはよく分かっていた。命令を下してくる人間は…彼らに肉体関係があろうが、その心が本物であろうが、そんな事はどうでもいいと考えている。

 いつかの未来に、学園で恋人がいたという過去を知る人間が現れる恐怖や不安を、取り除いていたいのだ。万が一、その関係が本物ならば――特に。

 数多の信者や親衛隊は容認で、恋人だけが許容出来ない理由までは、祐耶の預かり知るところでは無い。



 駒は駒らしく、餌は餌らしく。
 身体を使ってでも、優しく包囲するにしても、ターゲットに沿ったやり方で攻略しよう。彼らが……最悪の排除方法で離される前に。


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